結論:コーニッシュレックスは血液型B型の割合が高い猫種で、総説では約33%がB型と報告されています。A/B/AB型は
CMAH遺伝子で決まる健康な形質であり、病気ではありません。ただしB型の母猫にA型の父猫を交配すると、生まれたA型の子猫が母の初乳中の抗A抗体で溶血する新生児溶血(NI)が起こりえます。DNA検査は型を予測しますが品種依存で、レックス系では血清学的なB型を捕捉しきれないと報告されています。繁殖や輸血の判断は必ず獣医検査室の血清学的血液型検査で確認してください。DNA検査は診断ではありません。衰弱した子猫や繁殖・輸血の判断は獣医師へ相談してください。
血液型A/B/ABとCMAH遺伝子
ネコの血液型にはA型・B型・AB型の3種類があり、これはCMAH遺伝子(OMIA:000119-9685)が支配しています。CMAHは赤血球表面の糖を作り替える酵素で、シアル酸のNeuAcをNeuGcへ変換します。Bighignoli et al. 2007(BMC Genet 8:27)によれば、このNeuGcがA抗原にあたります。
CMAHの両方のコピーが機能を失うとNeuGcが作られずNeuAcだけが残り、これがB型です。したがってB型は劣性形質で、A型がB型に優性です。AB型はこれとは別の機序(CMAHのc.364C>T変異など、特にラグドールで報告)で生じるまれな型で、Gandolfi et al. 2016(PLOS One)によれば全体の1%未満です。重要なのは、これらはすべて健康な形質であって疾患ではないという点です。B型の猫は病気ではありません。
なぜB型の母猫でNIが起きるか
アオイ友人が「相手のオス猫の血液型を気にしてる」と言っていて。 森下 慧鋭い視点です。B型の猫は輸血歴が無くても強い自然抗A抗体を持つため、B型母×A型父の組み合わせが新生児溶血の鍵になります。B型の母猫にA型(またはAB型)の父猫を交配すると、A型の子猫が生まれることがあります。B型の母猫は生まれつき強い抗A抗体を持っており、それが初乳に移行します。A型の子猫がこの初乳を飲むと、抗A抗体が子猫のA型赤血球を破壊し、新生児溶血(NI)が起こります。
症状は衰弱、血色素尿(赤褐色の尿)、尾端の壊死などで、最悪の場合は死亡します。Silvestre-Ferreira & Pastor 2010によれば、こうしたリスクのある交配では、生後最初の約16〜24時間は母猫の初乳を与えず、里親猫や人工哺育でしのぐ管理が知られています。この時間帯を過ぎると子猫の腸は抗体をほとんど吸収しなくなるためです。B型の猫自体は健康ですが、繁殖の組み合わせには注意が必要だということです。
コーニッシュレックスと数字——DNA型と血清学の食い違い
アオイじゃあDNA検査でB型かどうか調べれば安心ですよね? 森下 慧そこが最大の落とし穴です。Kehl, Mueller & Giger 2019はレックス系で血清学的にはB型が多いのに、遺伝子型ではB型を1頭も検出できませんでした。コーニッシュレックスはTICAに認定されたレックス系の品種で、Silvestre-Ferreira & Pastor 2010の総説では約33%がB型と報告されています。他の猫種と比べても高い方です。
| 猫種 | B型頻度(%) |
|---|---|
| ターキッシュバン | 60 |
| ターキッシュアンゴラ | 46 |
| デボンレックス | 41 |
| コーニッシュレックス | 33 |
| バーマン | 18 |
| スフィンクス | 17 |
ここで最も誠実に伝えるべき点があります。Kehl, Mueller & Giger 2019(Anim Genet 50(4))は、レックス系(デボンレックス・コーニッシュレックス)では血清学的にはB型が多く検出されるのに、一般的なCMAH b-アレルのDNAパネルではB型を1頭も検出しなかったことを報告しました。つまり通常のDNA検査は、レックスのB型を捕捉しきれないのです。著者自身が、遺伝子型判定は「免疫血液学的検査の代替にはまだならない」と述べています。したがって、DNA検査でNIリスクを否定することはできません。
輸血の安全
アオイ血液型って、輸血のときも大事ですよね? 森下 慧極めて重要です。B型の猫は既存の抗A抗体を持つため、型不適合輸血は初回でも急性の致死的溶血を起こしうると報告されています。ネコの輸血では血液型の適合が不可欠です。B型の猫は輸血歴が無くても強い自然抗A抗体を持っているため、A型の血液を輸血すると、初回であっても既存の抗A抗体によって急性の致死的な溶血反応が起こりえます。犬とは異なり、ネコでは「1回目なら安全」という考え方が通用しません。
だからこそ、輸血の前には必ず血清学的な血液型判定と交差適合(クロスマッチ)を獣医検査室で行うことが基本です。ここでもDNA検査だけに頼ることはできません。前述のとおりレックス系ではDNAパネルがB型を捕捉しきれないため、輸血の可否を決めるのは血清学的検査です。
DNA検査でわかること・わからないこと
アオイDNA検査は結局、意味がないってことですか? 森下 慧いいえ、繁殖計画の下調べには有用です。ただGandolfiやKehlらの報告どおり、品種によって精度が変わるので確定は血清学で、という位置づけです。DNA検査は血液型を予測するのに役立ち、繁殖計画で相手を検討する際の下調べには有用です。しかし限界もはっきりしています。第一に、これは形質の予測であって診断ではありません。第二に、Kehl, Mueller & Giger 2019が示したように品種依存で、レックス系ではB型を取りこぼします。
したがって実際の繁殖(B型母×A型父を避ける、あるいは初乳管理を計画する)や輸血の判断は、獣医検査室の血清学的血液型検査で確認してください。「DNA検査でNIリスクを否定できる」とは考えないことが、子猫を守る第一歩です。衰弱した子猫を見つけたとき、あるいは繁殖・輸血の判断が必要なときは、必ず獣医師に相談してください。
よくある質問
Q. B型の母猫でも安全に子猫を育てられますか?
はい、組み合わせと管理次第で可能です。リスクはB型の母猫にA型(またはAB型)の父猫を交配してA型の子猫が生まれた場合で、母の初乳中の抗A抗体が新生児溶血を起こしえます。Silvestre-Ferreira & Pastor 2010では、こうした交配では生後約16〜24時間は母の初乳を与えず、里親・人工哺育でしのぐ管理が知られています。判断は獣医師に相談してください。
Q. DNA検査でB型でないと出れば、NIの心配はいりませんか?
いいえ、それは危険な誤解です。Kehl, Mueller & Giger 2019によれば、レックス系では血清学的にB型でも一般的なCMAH b-アレルのDNAパネルでB型が1頭も検出されませんでした。DNA検査はB型を取りこぼすことがあるため、NIリスクの否定には使えません。繁殖前には血清学的血液型検査で確認してください。
Q. B型の猫は病気なのですか?
いいえ。A型・B型・AB型はCMAH遺伝子で決まる健康な形質であり、疾患ではありません。B型の猫は健康です。血液型が問題になるのは、あくまで繁殖(NI)と輸血の安全という場面に限られます。
Q. 輸血のときは血液型を合わせれば大丈夫ですか?
型を合わせることは必須ですが、それに加えて交差適合(クロスマッチ)も行います。B型の猫は自然抗A抗体を持つため、型不適合輸血は初回でも致死的な溶血を起こしえます。輸血前には必ず獣医検査室で血清学的な型判定と交差適合を行ってください。
参考文献
- Silvestre-Ferreira AC, Pastor J. Feline neonatal isoerythrolysis and the importance of feline blood types. Vet Med Int. 2010:753726. PMID 20631821. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2899707/
- Kehl A, Mueller E, Giger U. DNA genotyping of the feline AB blood group system. Anim Genet. 2019;50(4). PMID 30854707. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6520129/
- Bighignoli B, et al. Cytidine monophospho-N-acetylneuraminic acid hydroxylase (CMAH) mutations associated with the domestic cat AB blood group. BMC Genet. 2007;8:27. PMID 17916260. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17916260/
- Gandolfi B, et al. A Novel Variant in CMAH Is Associated with Blood Type AB in Ragdoll Cats. PLOS One 2016. PMID 27171395. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27171395/ PLOS One. 2016. PMID 27171395.
- OMIA 000119-9685: Blood group AB system, CMAH, in Felis catus. https://www.omia.org/OMIA000119/9685/
- The International Cat Association (TICA). Cornish Rex Breed. https://tica.org/cornish-rex-breed/
題図:コーニッシュレックス、撮影 M.Minderhoud、CC BY-SA 3.0、Wikimedia Commons(出典)より。
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