結論:オリエンタルショートヘアはシャム系のくさび形短毛種で、CEP290遺伝子の劣性変異rdAc(c.7584+9T>G)による進行性網膜萎縮症のリスクが知られています。この型は遅発性で、失明するのは変異を2つ持つaffectedのみ。キャリア(1つ保有)は自身は正常ですが、子の約半数へ変異を伝えます。遺伝子検査のclear/carrier/affectedは遺伝的リスクと繁殖のための情報であって、診断や進行度を示すものではありません。診断は獣医眼科医による眼底検査とERGで行われます。
rdAcとCEP290とは(アビシニアンのRdyとは別物)
進行性網膜萎縮症(PRA)のうち、多くの猫種で共通して見られるのがrdAc型です。原因はCEP290遺伝子のスプライス部位変異で、旧称IVS50+9T>G、現在のHGVS表記ではc.7584+9T>Gと記されます(OMIA:001244-9685)。この変異はMenotti-Raymond et al. 2007(J Hered 98(3):211)で発見され、常染色体劣性・遅発性の光受容体変性を引き起こします。
混同されやすいのですが、アビシニアンには早発性の別のPRA「Rdy」があり、こちらはCRX遺伝子の常染色体優性変異で、rdAcとはまったく別の病気です。本記事が扱うのは、劣性で遅発性のrdAc(CEP290)のほうです。
オリエンタルショートヘアなどでどれくらいの頻度か
アオイオリエンタルはリスクが高いほうですか? 森下 慧はい。Menotti-Raymond 2009の調査ではオリエンタルショートヘアのrdAcアレル頻度は0.340で、シャム系の中でも高い部類です。43品種を対象にしたMenotti-Raymond et al. 2009/2010(Vet J)の調査では、シャム系の猫種でrdAc変異のアレル頻度が高いことが示されました。オリエンタルショートヘアではN=25でclear 11・carrier 11・affected 3、アレル頻度0.340と報告されています。以下は同調査の猫種別頻度の比較です。
| 猫種 | rdAcアレル頻度 |
|---|---|
| シャム | 約0.265(調査)/約0.33(北米+欧州) |
| オリエンタルショートヘア | 0.340 |
| ピーターボールド | 0.500(小標本N=8のため参考値) |
| オシキャット | 0.083 |
| デボンレックス | 0.000 |
ピーターボールドの0.500は標本数がN=8と小さいため、参考値として慎重に読む必要があります。全体として、シャムを祖とする品種群でrdAcが高頻度に維持されていることが読み取れます。
症状と遅発性の進行
アオイ子猫のうちは症状が出ないんですか? 森下 慧ええ、遅発性です。最初の1年以上は正常に見え、Narfströmら2009のERG研究では約1.5〜2歳頃から変化が現れます。CEP290がコードするタンパク質は、視細胞の「connecting cilium(連結繊毛)」——タンパク質を合成する内節と、光を受ける外節をつなぐ細い橋——の関所を作る役割を担います。rdAcスプライス変異によってこのタンパク質が短縮すると、オプシンなどの外節への輸送が破綻し、外節を作ることも維持することもできなくなります。その結果、まず暗所視を担う桿体が先に変性し(夜間・暗所での見えにくさ)、続いて錐体が失われる進行性の桿体錐体変性となります。
この型の特徴は遅発性であることです。生後最初の1年以上は正常に見え、Narfström et al. 2009のERG(網膜電図)・臨床所見では、変化が現れるのは約1.5〜2歳頃で、その後数年をかけて失明へと進みます。
clear・carrier・affectedと繁殖
アオイキャリアの猫も失明してしまうんですか? 森下 慧いいえ。劣性なので失明するのはaffectedのみ。キャリアは臨床的に正常ですが、UC Davis VGLの枠組みでは子の約50%に変異を伝えます。rdAcは常染色体劣性です。発症するのは変異を2つ持つaffected(rdAc/rdAc)だけで、変異を1つ持つキャリア(N/rdAc)は臨床的に正常であり、rdAcが原因で失明することはありません。ただしキャリアは、その変異を子の約50%に伝えます。
UC Davis VGLなどの検査はclear(変異なし)/carrier(1つ保有)/affected(2つ保有)の3枠で結果を返します。責任ある繁殖の観点では、キャリア×affected、あるいはcarrier×carrierの組み合わせを避けることで、affectedの子が生まれるリスクを下げられます。affectedやcarrierをclearと交配させ、段階的に頻度を下げていく管理が現実的です。
検査でわかること・わからないこと
アオイ検査すれば病気かどうか診断できますか? 森下 慧そこは区別が大切です。遺伝子検査は遺伝的リスクと繁殖の情報であって診断ではなく、診断は獣医眼科医の眼底検査とERGで行います。遺伝子検査でわかるのは、その猫がrdAc変異をいくつ持つか(clear/carrier/affected)という遺伝的状態です。これは繁殖計画を立てるための情報であり、また将来のリスクへの早期の気づきに役立ちます。一方で、検査結果は診断そのものではなく、現時点で網膜がどこまで変性しているか(進行度)を教えてくれるものでもありません。
実際の診断は、獣医眼科医が眼底検査とERG(網膜電図)を用いて行います。現時点でrdAcを治す治療法はないため、検査の価値は「早期に気づくこと」と「キャリア×affected/carrierを避ける責任ある繁殖」にあります。
よくある質問
Q. キャリアのオリエンタルショートヘアは失明しますか?
いいえ。rdAcは常染色体劣性で、失明するのは変異を2つ持つaffectedのみです。キャリア(N/rdAc)は臨床的に正常です。ただし子の約50%に変異を伝えるため、繁殖では相手選びが重要になります。
Q. 子猫の時点で症状が出ないのはなぜですか?
rdAc型は遅発性だからです。最初の1年以上は正常に見え、Narfströmら2009のERG研究では約1.5〜2歳頃から変化が現れ、その後数年かけて進行します。
Q. アビシニアンのPRAと同じものですか?
別物です。アビシニアンには早発性の「Rdy」(CRX遺伝子・常染色体優性)があります。本記事のrdAc(CEP290)は劣性・遅発性で、原因遺伝子も遺伝様式も異なります。
Q. 検査でaffectedと出たら治療できますか?
現時点でrdAcを治す治療法はありません。検査の価値は、早期の気づきと、キャリア×affected/carrierを避ける責任ある繁殖にあります。進行度の評価や診断は獣医眼科医の眼底検査・ERGで行います。
参考文献
- Menotti-Raymond et al. 2007, J Hered 98(3):211(PMID 17507457) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17507457/
- Menotti-Raymond et al. 2009/2010, Vet J(43品種調査、PMID 19747862) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6984347/
- Narfström et al. 2009(遺伝型-表現型・ERG、PMID 19751487) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19751487/
- OMIA:001244-9685(CEP290, rdAc) https://www.omia.org/OMIA001244/9685/
- UC Davis Veterinary Genetics Laboratory: PRA-rdAc(clear/carrier/affected) https://vgl.ucdavis.edu/test/pra-rdac
- Oriental Shorthair(品種概要) https://en.wikipedia.org/wiki/Oriental_Shorthair
- TICA: Oriental Shorthair https://tica.org/breed/oriental-shorthair/
題図:オリエンタルショートヘア、撮影 Scottinglis、CC BY 3.0、Wikimedia Commons(出典)より。
検査で調べるには
ペットのDNA検査には遺伝性疾患のキャリア(保因)やリスク指標を含むものがありますが、結果は「情報」であって診断ではありません。気になる症状や確定診断が必要な場合は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
日本国内にお住まいの方
日本国外にお住まいの方
健康・症状が心配な方へ — 獣医師への相談
遺伝性疾患の確定診断や治療方針は、検査キットではなく獣医師が判断します。以下は公的な相談先です。
※本セクションには広告(アフィリエイトリンク)を含みます。当サイトは商品の購入・申込みにより成果報酬を受け取る場合があります。遺伝子検査は病気の予防・診断・治療を保証するものではなく、結果は「傾向・情報」を示すものです。
このページは教育目的の情報提供であり、獣医療上の診断・助言ではありません。ペットの健康に関する判断は、必ず獣医師にご相談ください。



