アオイブルドッグは結石になりやすいって本当ですか?
森下 慧特定の遺伝子変異を持つ個体だけがハイリスクになる、と2008年の論文で示されています。全頭が対象ではありません。
アオイじゃあ検査すれば安心なんですか?費用も気になります。
森下 慧検査は「なりやすさ」を知る手段です。日本国内でも数千円台で受けられるサービスが出てきています。
アオイ保険とかブリーダー選びにも関係するんでしょうか?
森下 慧大いに関係します。告知義務や繁殖規制の話まで含めて、順番に整理していきましょう。
結論:ブルドッグの一部個体は、SLC2A9遺伝子のエクソン5変異(c.563G>T)をホモ接合で持つことで尿酸塩の結石(尿路結石)を発症しやすくなります。この変異は2008年にBannaschらがPLoS Geneticsで報告したもので、ダルメシアン247頭全頭に加え、ブルドッグとブラック・ロシアン・テリアの結石発症個体からも同一変異が確認されました。頬粘膜スワブによる非侵襲的な遺伝子検査で保有状況を把握でき、日本国内でも数千円台で検査サービスを利用できます。診断や治療方針は必ずかかりつけの獣医師に相談してください。
ブルドッグ(English Bulldog)は、その愛嬌のある顔立ちと穏やかな性格で日本でも根強い人気を持つ犬種です。一方で、短頭種特有の呼吸器の課題に注目が集まりがちですが、実はもうひとつ、遺伝子レベルで注意すべき疾患があります。それが高尿酸尿症・高尿酸血症(Hyperuricosuria/Hyperuricemia、略称HUU)です。
HUUはもともとダルメシアンに特有の疾患として知られてきましたが、2008年の研究により、ブルドッグを含む複数犬種にも同じ原因変異が受け継がれていることが明らかになりました。本稿では、原因遺伝子SLC2A9の仕組みから、日本国内で実際に利用できる検査サービス、繁殖に関わる法規制、ペット保険への影響まで、ブルドッグの飼い主・ブリーダーの視点で整理します。
SLC2A9遺伝子とHUUの仕組み
HUUの原因は、SLC2A9という遺伝子のエクソン5に生じるミスセンス変異(c.563G>T、アミノ酸置換としてはCys188Phe、通称C188F)です。SLC2A9は腎臓の尿細管で尿酸を再吸収する輸送体タンパク質をコードしており、この変異があるとその機能が損なわれ、本来体内に再吸収されるはずの尿酸が尿中に大量に排泄されてしまいます。
遺伝形式は常染色体劣性遺伝です。つまり、両親から1本ずつ変異型の遺伝子(対立遺伝子)を受け継いだ「ホモ接合体」の個体だけが高尿酸尿症を発症し、片方だけ変異を持つ「ヘテロ接合体(キャリア)」は基本的に症状を示しません。尿中の尿酸濃度が高い状態が続くと、尿酸塩の結晶が形成されやすくなり、やがて腎臓や膀胱に結石(尿路結石)を作ることがあります。米国コーネル大学のRiney Canine Health Centerも、HUUを「遺伝性でまれな疾患であり、血中・尿中の尿酸蓄積が腎臓・膀胱の結石形成につながる」疾患と説明しています。
発見の経緯とブルドッグが対象犬種である理由
HUUの原因変異を特定したのは、Bannaschらによる2008年の研究(PLoS Genetics)です。この研究ではまず、ダルメシアン247頭全頭が同一のホモ接合変異を持つことを確認しました。ダルメシアンでHUUの頻度が極めて高いのはこのためです。
研究チームはさらに、ダルメシアン以外の58犬種378頭についても同じ変異の有無を調べましたが、この一般集団スクリーニングでは変異は見つからず、全頭が野生型(変異なし)でした。これとは別に、すでに尿路結石(尿酸塩結石)を発症していたブルドッグ2頭とブラック・ロシアン・テリア2頭を対象に同じ変異を検査したところ、いずれもダルメシアンと同一のエクソン5変異をホモ接合で保有し、周辺のハプロタイプ(遺伝子の並び方)までダルメシアンと共通していました。論文はこれを、単一の古い変異が複数犬種の系統に共有されて受け継がれた結果と解釈しています。つまりブルドッグでこの変異が確認されているのは無作為抽出ではなく、実際に結石を発症した個体に限られる点に注意が必要です。
アオイ同じ変異なのに、なぜダルメシアンだけ有名なんですか?
森下 慧ダルメシアンは調査した247頭全頭が該当したためです。他犬種では、すでに結石を発症していたごく少数の個体でのみ確認されています。
症状と鑑別診断
HUUホモ接合体の犬に見られる主な症状は、頻尿、血尿、排尿時の痛み、尿が出にくい・出ない(尿道閉塞)などです。特にオスは尿道が細く長いため、結石による閉塞を起こしやすいとされています。尿道閉塞は急性腎不全につながる緊急疾患であり、様子見をしている時間はありません。
ただし、これらの症状は膀胱炎やストルバイト結石など他の泌尿器疾患でも共通して見られます。実際に結石ができているかどうか、またその結石の種類(尿酸塩かストルバイトか等)を見分けるには、尿検査・画像診断(レントゲンや超音波)・結石分析が必要です。遺伝子検査は「なりやすさ」を示す予防的な情報であり、それ自体が確定診断の代わりになるわけではない点に注意してください。症状が見られる場合は、遺伝子検査の結果を待たずにまず動物病院を受診することが優先されます。特にオスが尿を全く出せない状態は診療時間外でも様子を見てはいけない緊急事態なので、かかりつけ医院の診療時間外であれば夜間救急動物病院を受診してください。かかりつけ医で結石が疑われた場合、詳しい画像診断や結石成分分析、内科系専門医による継続管理のために、二次診療施設(大学附属動物病院や専門病院)への紹介状を書いてもらう流れが一般的です。過去に遺伝子検査を受けたことがあれば、その結果票を診察時に持参すると、鑑別診断がスムーズになります。
検査の受け方 ── 日本国内の実情
HUUの遺伝子検査は、頬の内側を綿棒でこすって粘膜細胞を採取するだけの非侵襲的な検査で行えます。海外ではUC Davis獣医遺伝学研究所(VGL)などが古くからこの検査を提供してきました。
日本国内でも、犬の遺伝性疾患パネル検査を扱う事業者が増えています。たとえば株式会社VEQTA(ベクタ)は、ブルドッグを対象犬種に含む遺伝子検査パネルの中でHUU(高尿酸尿症)の項目を提供しています。価格は単品1項目で4,950円ですが、同じ犬種のパネル項目をまとめて申し込むほど1項目あたりの単価は下がる料金体系です(ブルドッグ向けパネルの対応項目はHUUとDMの2項目で、2項目セットの場合は9,350円=1項目あたり4,675円)。「Pontely」など、自宅で採取した検体を郵送し約2週間で結果が届くサービスもありますが、HUUが検査項目に含まれるかはサービスごとに異なるため、申込前に必ず公式サイトの最新の検査項目リストを確認してください。
一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)の犬種別犬籍登録頭数統計によれば、2025年のブルドッグの登録頭数は945頭で、全犬種中30位でした。人気犬種として一定数流通している一方、日本には米国のOFA/CHICデータベースのように「どの犬がどの遺伝子検査を受け、結果がどうだったか」を第三者が横断的に確認できる公開データベースは存在しません。そのためブルドッグの子犬を迎える際、両親犬のHUU検査結果を確認する唯一の方法は、ブリーダーに直接開示を求めることです。ジャパンケネルクラブの血統書は血統(父母・祖先犬の系統)を証明するものであり、遺伝子検査結果の有無を保証するものではない点に注意してください。
アオイ検査で「陽性」が出たら、もう手遅れってことですか?
森下 慧いいえ。ホモ接合とわかれば、食事管理や定期的な尿検査で結石化を予防する対応が取れます。
繁殖と法規制
日本では、犬猫の販売や繁殖を行う事業者は動物愛護管理法上の「第一種動物取扱業者」として登録が必要です。環境省の犬猫の飼養管理基準(令和3年環境省令第七号)では、繁殖に用いる雌犬の交配時年齢は原則6歳以下、生涯出産回数は6回まで(7歳到達時点で6回未満なら7歳まで延長可)という上限が定められています。この基準は繁殖回数・年齢の規制が中心で、遺伝性疾患の検査結果を記録・開示する義務までは条文上明記されていません。そのためHUUのような遺伝性疾患については、検査を受けるかどうか、結果を開示するかどうかは、現状では事業者の任意の取り組みに委ねられている部分が大きい点に注意してください。
HUUのような常染色体劣性遺伝の疾患は、キャリア(ヘテロ接合体)同士を交配させると理論上4頭に1頭の割合でホモ接合体が生まれ得ます。法的な開示義務が明確でない以上、ブリーダーが両親犬の遺伝子検査結果を把握・開示しているかどうかは、購入者自身が確認すべき実務的なポイントになります。個人の飼い主として犬を迎える場合も、ブリーダーが遺伝性疾患の検査結果を開示しているかは重要な判断材料です。
ペット保険への影響
日本の主要なペット保険各社は、契約時に既往歴や健康状態の告知義務を課しており、遺伝性疾患は補償対象外となるケースが多いとされています。たとえばアニコム損保の案内では、契約初年度は始期日から30日間の「待機期間」が設けられており、この期間中に発症した病気は補償対象外になります(この扱いは待機期間が終わった後も続きます)。ただし外傷や咬傷などのケガは待機期間の対象外で、契約直後から補償されます。HUUによる結石は病気に分類されるため、保険加入直後の30日間に発症した場合は補償対象外になり得ます。
裏を返せば、症状が出る前の若齢期に遺伝子検査でリスクを把握し、早めにペット保険へ加入しておくことは、待機期間や既往歴の問題を回避するうえで理にかなった選択です。保険会社ごとに告知事項・免責条件は異なるため、加入前に各社の約款・告知書を必ず確認してください。
ブルドッグの飼い主が今日からできること
HUUは治せない病気ではなく、リスクを知って備えることができる病気です。ブルドッグと暮らす、またはこれから迎える方は、次の点から始めてみてください。
- 頬粘膜スワブによる遺伝子検査で、SLC2A9変異のホモ接合・ヘテロ接合・変異なしのいずれかを確認する
- 頻尿・血尿・排尿困難などの症状があれば、様子を見ずにすぐ動物病院を受診する
- 新鮮な飲み水をいつでも飲める環境を整え、水分摂取量を増やす工夫をする
- 繁殖を検討する場合は、交配相手の遺伝子検査結果も含めて事前に確認する
- ペット保険は症状が出る前、できるだけ若齢のうちに加入を検討する
本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療方針の決定はかかりつけの獣医師にご相談ください。
よくある質問
Q. HUUは必ず発症するのですか?
いいえ。SLC2A9変異を両親から1本ずつ受け継いだホモ接合体のみがリスクを持ちます。片方だけ変異を持つキャリアは基本的に症状が出ません。
Q. 遺伝子検査は自宅でできますか?
できます。多くのサービスが頬の内側を綿棒でこするだけの非侵襲的な採取方法を採用しており、検体を郵送して結果を待つ形式が一般的です。
Q. すでに結石ができてしまった場合はどうすればいいですか?
まずは動物病院での診断が優先です。低プリン食による食事管理を評価したパイロット試験も報告されていますが、食事内容や薬の使用はかかりつけの獣医師の指導のもとで行ってください。
Q. ブルドッグ以外の犬種でもHUUは起こりますか?
はい。ダルメシアンで最も高頻度に見られるほか、ブラック・ロシアン・テリアなど他犬種でも同一変異が報告されています。犬種にかかわらず、気になる場合は検査で確認できます。
参考文献
- Bannasch D. et al. (2008). “Mutations in the SLC2A9 Gene Cause Hyperuricosuria and Hyperuricemia in the Dog.” PLoS Genetics 4(11):e1000246.
- Cornell University Riney Canine Health Center. “Hyperuricosuria and Hyperuricemia (or Urolithiasis, HUU).”
- Westropp JL, Larsen JA, Johnson EG, Bannasch D, Fascetti AJ, Biourge V, Queau Y (2017). “Evaluation of dogs with genetic hyperuricosuria and urate urolithiasis consuming a purine restricted diet: a pilot study.” BMC Veterinary Research 13:45.
- ACVIM. “Small Animal Consensus Recommendations on the Treatment and Prevention of Uroliths in Dogs and Cats.”
- UC Davis Veterinary Genetics Laboratory. “Hyperuricosuria (HUU) Test.”
- 一般社団法人ジャパンケネルクラブ. 「犬種別犬籍登録頭数」(2025年)
- 株式会社VEQTA. 「犬の遺伝子検査サービス(HUU 高尿酸尿症を含むパネル)」
- 環境省. 「動物を繁殖の用に供することができる回数、繁殖の用に供することができる動物の選定 その他の動物の繁殖の方法に関する事項」(令和3年環境省令第七号 犬猫の飼養管理基準)
- アニコム損害保険株式会社. 「ペット保険の待機期間って?いつから補償開始?」
- O’Neill DG. et al. (2019). “Disorders of Bulldogs under primary veterinary care in the UK in 2013.” (VetCompass)
検査で調べるには
ペットのDNA検査には遺伝性疾患のキャリア(保因)やリスク指標を含むものがありますが、結果は「情報」であって診断ではありません。気になる症状や確定診断が必要な場合は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
この記事で扱う 高尿酸尿症 (SLC2A9) を、各サービスが検査対象として明記しているかを、お住まいの地域別にまとめました(✅=対象/❓=要確認(公式に明記なし)/❌=対象外)。
日本国内にお住まいの方
日本国外にお住まいの方
※ キットの購入・国際配送が可能でも、検体の返送・解析・結果受領といったサービス提供が居住国で受けられる保証はありません。各サービスの「サービス提供」地域と返送方法を注文前に必ずご確認ください。
その他の国・地域で提供されているサービス(お住まいの地域では入手できない場合があります)
健康・症状が心配な方へ — 獣医師への相談
遺伝性疾患の確定診断や治療方針は、検査キットではなく獣医師が判断します。以下は公的な相談先です。
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このページは教育目的の情報提供であり、獣医療上の診断・助言ではありません。ペットの健康に関する判断は、必ず獣医師にご相談ください。


