結論: マンチカンはアニコム2024でも登録上位の人気猫種です。HCM(肥大型心筋症)は猫で最も多い心臓病で、日本の研究コホート(PLOS One 2023)では本来メインクーンの変異とされるMYBPC3 A31Pがマンチカンでも検出されたと報告されました。ただしこれは不完全浸透のリスク因子で、持っていても必ず発症するとは限りません。遺伝子検査は診断ではなく把握や繁殖判断のための情報で、心筋の肥厚は獣医師が心エコーで診断します。DNAは生涯不変なので検査は一度でよく、心臓の定期スクリーニングと併用します。なお、マンチカン本来の特徴は短い四肢(軟骨異形成)で、HCMはそれとは別の問題です。
MYBPC3とHCMとは
HCM(肥大型心筋症)は、心臓の壁を作る心筋が異常に厚くなり、内腔が狭くなって血液を送り出しにくくなる病気です。猫では最も多い心臓病として知られ、Kittleson・Côté(2021)のレビューでも猫の代表的な心筋症として整理されています。
この病気に関わる遺伝子のひとつがMYBPC3です。MYBPC3が作るタンパク質は、心筋の収縮装置を支える「足場」のような役割を担っており、その設計図に変異があると心筋の構造がうまく保てず、異常な肥厚につながりうると研究では報告されています。
マンチカンとA31P変異
アオイ友人の子、メインクーンじゃないのになんで陽性なんでしょう? 森下 慧元はメインクーンの変異ですが、日本の調査でマンチカン等でも検出されたと報告されています(PLOS One 2023)。全頭ではなく一部の個体ですよ。MYBPC3のA31Pという変異は、もともとメインクーンの家族性HCMに関連づけて報告されたものです(Meurs 2005)。長らくメインクーン特有と考えられてきましたが、近年の調査で他の猫種でも見つかるケースが出てきました。
日本の猫を対象にした調査(PLOS One 2023)では、マンチカンやスコティッシュフォールドを含む複数の猫種でMYBPC3変異が検出されたと報告されています。ただしこれは「マンチカンなら必ず持っている」という話ではなく、あくまで一部の個体で確認されたという位置づけです。マンチカン本来の特徴である短い四肢(軟骨異形成)とは別の、独立した遺伝的リスク因子として捉えるのが自然です。
HCMがなぜ重要か
アオイ友人の子は今すごく元気らしいんですが、それでも心配なんですか? 森下 慧HCMは無症状のことも多く、進むとうっ血性心不全や鞍状血栓に至りうると報告されています(Kittleson・Côté 2021)。元気なうちのスクリーニングが鍵です。HCMが注意を要するのは、初期には無症状のことが多いためです。見た目には元気でも心筋の肥厚が静かに進み、飼い主が気づきにくいことが指摘されています。
進行すると、うっ血性心不全、動脈血栓塞栓症(後ろ足に血流が届かなくなる大動脈鞍状血栓が典型)、突然死といった深刻な事態につながりうると研究では報告されています。だからこそ、症状が出る前からの心臓スクリーニングが大切だと考えられています。
キャリアと発症は別
アオイ陽性って聞くと、もう発症が決まったみたいで怖いです。 森下 慧A31Pは不完全浸透なので、持っていても発症しない子も多いんです(Meurs 2005・PLOS One 2023)。陽性は運命ではなく情報ですよ。ここで大切なのが、変異を持っていること(キャリア)と、実際に発症することは別だという点です。A31Pは「不完全浸透」のリスク因子で、変異があっても発症しない個体も少なくないとMeurs(2005)でも報告されています。
また、変異を1本受け継いだヘテロ接合か、2本受け継いだホモ接合かといった接合性によってもリスクの度合いは変わりうると考えられています。いずれにせよ、陽性という結果は運命の確定ではなく、注意して見守るべき「情報」だと理解するのが妥当です。
検査でわかること・わからないこと
アオイじゃあ遺伝子検査だけで安心、というわけではないんですね。 森下 慧検査でわかるのは既知変異のリスクまでで、実際の肥厚は獣医師の心エコーで診断します(Kittleson・Côté 2021)。両方を併用するのが現実的です。遺伝子検査でわかるのは、既知の変異を持っているかどうかという「リスクや傾向」です。検査は病気を診断・予測・予防・治療するものではなく、把握や繁殖判断のための情報として活用します。また、検査はあくまで既知の変異を調べるものなので、それ以外の未知の要因までカバーできるわけではありません。
実際に心筋が肥厚しているかどうかの臨床診断は、獣医師による心臓超音波(心エコー)で行います。DNAは生涯変わらないため遺伝子検査は一度で足りますが、心臓の状態は年月とともに変わりうるので、定期的な心エコーによるスクリーニングと併用するのが現実的な向き合い方です。
よくある質問
Q. 元気そうに見えても検査は必要ですか?
HCMは初期に無症状のことが多いと報告されており、見た目の元気さだけでは判断が難しいとされています。遺伝子検査でリスクや傾向を把握しつつ、獣医師と相談して心エコーによるスクリーニングを検討する材料になります。
Q. 陽性なら必ずHCMになりますか?
いいえ。A31Pは不完全浸透のリスク因子で、変異を持っていても発症しない個体も少なくないと研究では報告されています(Meurs 2005)。陽性は運命の確定ではなく、注意して見守るための情報です。
Q. 「変異なし」ならHCMにならないのですか?
そうとは言えません。検査は既知の変異のみを調べるもので、それ以外の要因までは分かりません。「変異なし」でもHCMの可能性がゼロになるわけではないため、定期的な心エコーによるスクリーニングが引き続き役立つと考えられています。
Q. 検査結果は一生有効ですか?
DNAは生涯変わらないため、遺伝子検査は基本的に一度で足ります。一方で心臓の状態は年月とともに変化しうるので、遺伝子検査の結果は変わらなくても、心エコーによる定期スクリーニングとの併用が大切です。
参考文献
- Meurs KM, et al. (2005) A cardiac myosin binding protein C mutation in the Maine Coon cat with familial hypertrophic cardiomyopathy. Hum Mol Genet 14(23):3587-3593. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16236761/
- Kittleson MD, Côté E. (2021) The Feline Cardiomyopathies. J Feline Med Surg. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34693838/
- (2023) MYBPC3 variant survey in Japanese cats incl. Munchkin/Scottish Fold. PLoS One. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37071642/
- アニコム「猫の品種ランキング」 https://www.anicom-sompo.co.jp/
検査で調べるには
ペットのDNA検査には遺伝性疾患のキャリア(保因)やリスク指標を含むものがありますが、結果は「情報」であって診断ではありません。気になる症状や確定診断が必要な場合は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
この記事で扱う 肥大型心筋症 (MYBPC3) を、各サービスが検査対象として明記しているかを、お住まいの地域別にまとめました(◯=対象/要確認=公式に明記なし)。
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このページは教育目的の情報提供であり、獣医療上の診断・助言ではありません。ペットの健康に関する判断は、必ず獣医師にご相談ください。



