結論:コーギー(ウェルシュ・コーギー・ペンブローク)は日本でJKC登録上位の人気犬種です。変性性脊髄症(DM)は高齢犬に多い進行性の脊髄変性疾患で、ヒトのALSに似るとされ、主にSOD1 c.118G>A変異が関与します(Awano 2009)。遺伝は常染色体劣性かつ加齢依存の不完全浸透。DNA検査はクリア/キャリア/発症リスクのリスク分類を返すもので診断ではありません——キャリアは通常発症せず、発症リスクでも必ず発症するとは限らないためです。確定は獣医師が椎間板ヘルニア等を除外する臨床判断(除外診断)で行います。日本ではアニコムの繁殖プログラム活用で発症リスク保有率が2016年46%から2022年2.9%へ大きく低下したと報告されました。治癒法はなく支持療法が中心です。
DMとSOD1遺伝子とは
変性性脊髄症(Degenerative Myelopathy/DM)は、成犬から高齢期にかけて発症する進行性の脊髄変性疾患です。脊髄の白質が徐々に障害され、後肢のふらつきから始まってゆっくりと進行していく点が特徴で、その病態はヒトの筋萎縮性側索硬化症(ALS)に似るとされています。
研究上、最も主要なリスク変異として同定されているのがSOD1遺伝子の c.118G>A です(Awano T, et al. 2009, PNAS)。この変異はALS研究とも関連する遺伝子上にあり、犬のDMを分子レベルで理解する手がかりとして注目されてきました。ただしこの変異があること自体が発症を意味するわけではなく、あくまでリスクに関わる因子として位置づけられます。
コーギーとDM
アオイ友人が飼ってるコーギー、DMが心配だそうです。日本でも多いんですか? 森下 慧コーギーは関連が知られる犬種です。アニコムの報告では繁殖判断への活用で発症リスク保有率が46%から2.9%へ低下したとされます。ウェルシュ・コーギー・ペンブロークはDMとの関連が知られる犬種のひとつで、SOD1 c.118G>A変異の保有が報告されています。日本ではコーギーはJKC登録の上位に入る人気犬種であり、それだけに飼い主にとってDMは関心の高いテーマになっています。
日本固有の良いデータとして、アニコムの繁殖プログラムの報告が挙げられます。検査結果に基づいて交配を判断することで、発症リスク(2コピー)を保有する個体の割合が2016年の46%から2022年には2.9%へと大きく低下したと報告されています。これは「検査を診断としてではなく、繁殖判断の材料として使う」好例といえます。なお、変異アレルの頻度は品種や地域によって異なるため、単一の数字ですべてを断定することはできません。
DMがなぜ重要か
アオイ後肢がふらつくって、すぐ気づけるものなんですか? 森下 慧痛みを伴わないことが多く見過ごされがちですが、数ヶ月かけて麻痺へ進むとされます。椎間板疾患と紛らわしいので除外診断が要ります。DMの初期症状は、痛みを伴わないことが多い後肢のふらつきやよろめきとして現れます。痛がる様子が乏しいため見過ごされやすい一方で、数ヶ月から徐々に進行し、やがて後肢の麻痺へと至っていくことが知られています。日常のちょっとした変化が最初のサインになることもあります。
現時点で治癒法はなく、対応は支持療法(リハビリや生活環境の調整など、生活の質を支えるケア)が中心となります。さらに難しいのは、DMが除外診断であるという点です。後肢の症状は椎間板ヘルニアなど他の脊髄疾患でも起こり得るため紛らわしく、DMかどうかは他疾患を除外したうえで判断する必要があります。
劣性遺伝+不完全浸透
アオイ2コピーだと、もう発症は避けられないってことですか? 森下 慧そうとは限りません。DMは加齢依存の不完全浸透で、発症リスクでも発症しない個体もいると報告されています(Awano 2009)。SOD1 c.118G>Aの遺伝形式は常染色体劣性で、DNA検査は結果を3つのリスク分類で返します。すなわち、変異を持たないクリア(N/N)、1コピーを持つキャリア(N/DM)、2コピーを持つ発症リスク(DM/DM)です。キャリア(1コピー)は通常発症しないと考えられています。
ここで重要なのが、加齢依存の不完全浸透という性質です。発症リスク(2コピー)であっても、必ずしも発症するとは限りません。2コピーを持っていても生涯にわたり症状が出ない個体もいるため、「発症リスク」はあくまでリスクの高さを示すものであって、将来を確定的に予測するものではないのです。
検査でわかること・わからないこと
アオイじゃあ検査結果だけでDMかどうか分かるわけじゃないんですね? 森下 慧はい、検査はリスク分類で診断ではありません。確定は獣医が他疾患を除外して判断します。繁殖判断には有用だと報告されています。DNA検査でわかるのは、既知のSOD1 c.118G>A変異に基づくリスク分類です。これはクリア/キャリア/発症リスクという確率的な位置づけを示すものであり、診断ではありません。犬が実際にDMであるかどうかの確定は、獣医師が椎間板ヘルニアなど他の脊髄疾患を除外して臨床的に判断する(除外診断)ことによって行われます。
一方で検査には確かな有用性があります。アニコムの事例が示すように、検査結果を交配の判断材料として使えば、集団全体で発症リスク保有率を下げていくことが期待できます。ただし検査が見ているのはあくまで既知の変異のみで、予防・治療・治癒を約束するものではない点は押さえておく必要があります。
よくある質問
Q. 「発症リスク」なら必ずDMになりますか?
いいえ。「発症リスク」(2コピー)はあくまでリスク分類であり、必ず発症することを意味しません。DMは加齢依存の不完全浸透を示すため、2コピーを持っていても発症しない個体もいると報告されています(Awano 2009)。DNAの結果は診断ではなく、確定は獣医師の臨床判断によります。
Q. 「キャリア」は発症しますか?
キャリア(1コピー)は通常発症しないと考えられています。遺伝形式が常染色体劣性のため、リスクに大きく関わるのは主に2コピーを持つ場合です。ただしキャリアであることは繁殖の際の組み合わせを考えるうえで重要な情報になります。
Q. DMは予防・治癒できますか?
現時点でDMの治癒法は確立されておらず、対応は支持療法が中心です。DNA検査は予防・治療・治癒を行うものではありません。ただし検査結果を繁殖判断に活用することで、集団としての発症リスク保有率を下げていく取り組みは報告されています(アニコムの事例で46%→2.9%)。
Q. 検査結果は一生有効ですか?
DNA配列そのものは生涯を通じて変わりません。ただし検査が見ているのは既知のSOD1 c.118G>A変異に基づくリスク分類であり、その解釈は研究の進展で更新され得ます。また結果はあくまでリスクを示すもので、実際にDMかどうかの判断は、その都度の獣医師による臨床評価(除外診断)が必要です。
参考文献
- Awano T, et al. (2009) A SOD1 mutation in canine degenerative myelopathy that resembles ALS. PNAS 106(8):2794-2799. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19188595/
- Zeng R, et al. (2014) Breed distribution of SOD1 alleles associated with canine degenerative myelopathy. J Vet Intern Med 28(2):515-521. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24524809/
- Orthopedic Foundation for Animals (OFA) — Degenerative Myelopathy. https://ofa.org/degenerative-myelopathy/
- アニコム 変性性脊髄症(DM)関連の取り組み https://www.anicom.co.jp/
検査で調べるには
ペットのDNA検査には遺伝性疾患のキャリア(保因)やリスク指標を含むものがありますが、結果は「情報」であって診断ではありません。気になる症状や確定診断が必要な場合は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
この記事で扱う 変性性脊髄症 (SOD1) を、各サービスが検査対象として明記しているかを、お住まいの地域別にまとめました(◯=対象/要確認=公式に明記なし)。
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