ソマリの遺伝性溶血性貧血「ピルビン酸キナーゼ欠損症(PK-Def/PKLR)」|クリア・キャリア・発症の意味

ソマリ ピルビン酸キナーゼ欠損症 PKLR 日本語

結論:ソマリ(長毛のアビシニアン)には、PKLR遺伝子の変異による常染色体劣性の遺伝性溶血性貧血「ピルビン酸キナーゼ欠損症(PK-Def)」が知られています。赤血球が早期に壊れて間欠的な貧血を起こしますが、経過は多様で、多くの猫は経過観察のもとで比較的普通に生活します。遺伝子検査でわかるのは「clear/carrier/affected」という遺伝的リスクと繁殖に関わる情報であり、貧血そのものの診断ではありません。健康の心配は必ず獣医師にご相談ください。

PK欠損症とPKLR遺伝子とは

本ページはアフィリエイト広告を含みます。以下は、公開された査読済みの研究エビデンスを横断的に整理した情報提供であり、診断・治療・予防を目的としたものではありません。気になる症状や健康上の判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
アオイアオイ大学時代の友人のソマリが貧血って言われて、心配で。 森下 慧森下 慧ソマリで知られる貧血の一因がPK欠損症です。ネコのPK欠損は2008年、Kohn & Fumiがアビシニアンとソマリで最初に記載しました。

ピルビン酸キナーゼ(PK)は、糖をエネルギーに変える「解糖系」で働く重要な酵素です。とくに成熟した赤血球はミトコンドリアを持たないため、ATP(エネルギー)の供給を解糖系だけに頼っています。この酵素をつくる設計図が、赤血球型のPKをコードするPKLR遺伝子です。

ネコでは、PKLR遺伝子のイントロン5に生じるスプライス変異 c.693+304G>A が原因として知られています。イントロン内のG→A変化がエクソン5末端の13塩基欠失を引き起こし、フレームシフトによって248番目のアミノ酸で早期終止が起こります。その結果、成熟タンパクの約57%が欠損すると報告されています。この変異は2012年にGrahnらによって同定されました(BMC Vet Res 8:207, PMID 23110753OMIA:000844-9685)。ソマリとアビシニアンは、ネコのPK欠損が最初に記載された2品種です(Kohn & Fumi 2008, PMID 18077199)。

ソマリなどでどれくらい見られるか(品種別データ)

アオイアオイソマリだと、どのくらいの割合なんですか? 森下 慧森下 慧Grahn 2012では米国ソマリの変異アレル頻度は8.5%(n=633)。ただし検査提出個体を含むサンプルなので実集団では低い可能性があります。

Grahnら(2012)は複数の純血種でPKLR変異アレルの頻度を調べました。ソマリでは米国8.5%(n=633)、英国14.0%(n=65)と報告されています。以下は主な品種の比較です。いずれも遺伝子検査に提出された個体を含むサンプリングのため、実際の集団での頻度はこれより低い可能性がある点に注意が必要です。

品種(地域) 変異アレル頻度 標本数
ベンガル(米国) 16.4% n=大規模サンプル
アビシニアン(米国) 12.6% n=大規模サンプル
ノルウェージャンフォレストキャット(米国) 10.0%(※小標本のため参考値) n=13
ソマリ(米国) 8.5% n=633
ソマリ(英国) 14.0% n=65

※出典:Grahn RA et al. 2012(PMID 23110753)。すべて検査提出バイアスを含むサンプルであり、ノルウェージャンフォレストキャットは標本数が13と小さいため、数値は参考程度に留めてください。

症状:間欠的な溶血性貧血

アオイアオイ具体的にはどんな症状が出るんですか? 森下 慧森下 慧赤血球の早期崩壊で間欠的な貧血が起きます。Kohn & Fumi 2008では最長11年の追跡例もあり、多くは比較的普通に生活していました。

PKが欠損すると、赤血球はエネルギー不足に陥り、通常より早く壊れてしまいます(溶血)。これが間欠的な溶血性貧血として現れます。見られやすい症状には、元気の消失、粘膜(歯ぐきなど)の蒼白、食欲低下、体重減少、被毛のつやの低下があり、ときに黄疸を伴い、しばしば脾臓の腫れ(脾腫)が認められます。

経過は間欠的で個体差が大きいのが特徴です。発症時期は生後およそ6か月から約5歳までと幅があり、多くの猫は経過観察のもとで比較的普通に生活します。Kohn & Fumi(2008)の報告では、最長11年にわたって追跡された例もありました。

clear・carrier・affectedと繁殖の意味

アオイアオイ検査結果の3つの区分、意味が違うんですよね? 森下 慧森下 慧常染色体劣性なので、貧血リスクは変異を2本持つaffectedに限られます。1本のcarrierは健康で、意味を持つのは繁殖上だけです。

PK欠損症は常染色体劣性で遺伝します。つまり、貧血のリスクがあるのは変異を2本持つ「affected(遺伝的に罹患型)」の個体に限られます。変異を1本だけ持つ「carrier(キャリア)」は健康で、その情報が意味を持つのは繁殖計画のうえだけです。「clear」は変異を持たない個体を指します。

重要なのは、遺伝的にaffectedであっても重症度は大きく異なる点です。生涯にわたって軽い間欠性の貧血しか示さないこともあります。繁殖では、carrier同士やaffectedを含む交配でaffectedが生まれ得るため、この区分は健康管理というより繁殖判断のための情報として活用されます。

検査でわかること・わからないこと(診断ではありません)

アオイアオイ検査すれば、貧血かどうか分かるんですか? 森下 慧森下 慧いいえ。遺伝子検査は遺伝的リスクと繁殖情報で、診断ではありません。貧血の診断は獣医師がCBCや網赤血球、血液塗抹で行います。

PKLRの遺伝子検査でわかるのは、その猫が変異をいくつ持つか(clear/carrier/affected)という遺伝的リスクと繁殖に関わる情報です。これは貧血そのものの診断ではありません。遺伝的にaffectedでも、いつ・どの程度の症状が出るか、あるいは出ないかを検査結果だけで断定することはできません。

貧血の診断は、獣医師が血液検査(CBC、網赤血球数、血液塗抹の観察など)を通して行います。遺伝子検査の結果はあくまで情報・リスクとして受け止め、実際の健康状態に不安があるときは、必ず獣医師に相談してください。ソマリは日本でも定着した人気の純血種で(アニコム 猫種紹介)、迎える前・繁殖前の情報として本検査を役立てられます。

よくある質問

Q. キャリア(carrier)のソマリは、将来貧血になりますか?
いいえ。常染色体劣性のため、変異を1本だけ持つキャリアは基本的に健康です。この情報は繁殖計画のうえで意味を持ちます。

Q. 遺伝的にaffectedなら、必ず重い貧血になりますか?
必ずしもそうではありません。affectedでも重症度は大きく異なり、軽い間欠性の貧血だけで経過することもあります。発症時期も生後約6か月〜約5歳と幅があります。

Q. 遺伝子検査は貧血の診断になりますか?
なりません。遺伝子検査は遺伝的リスク・繁殖情報を示すものです。貧血の診断は獣医師がCBC・網赤血球・血液塗抹などの血液検査で行います。

Q. ソマリでどのくらいの割合が変異を持っていますか?
Grahn 2012では米国ソマリの変異アレル頻度は8.5%(n=633)、英国14.0%(n=65)でした。ただし検査提出個体を含むサンプルのため、実際の集団ではこれより低い可能性があります。

参考文献

題図:ソマリ、撮影 AbuDun91919、CC BY-SA 4.0、Wikimedia Commons(出典)より。

検査で調べるには

ペットのDNA検査には遺伝性疾患のキャリア(保因)やリスク指標を含むものがありますが、結果は「情報」であって診断ではありません。気になる症状や確定診断が必要な場合は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

日本国内にお住まいの方

Pontely 猫の遺伝子検査

日本国外にお住まいの方

Basepaws Cat DNA (Zoetis)
Cheek swab. 40+ health markers incl. HCM (MYBPC3 A31P & R820W) and PKD1.
Optimal Selection / Wisdom Panel Feline
Cheek-swab feline panel incl. HCM (Maine Coon A31P & Ragdoll R820W) and PKD1.
UC Davis VGL (cat)
University lab; separate Maine Coon (A31P) & Ragdoll (R820W) HCM tests and a PKD1 test. Accepts international samples.
Orivet (Feline)
Feline DNA tests incl. Ragdoll HCM (R820W). PKD1: verify on the product page.

健康・症状が心配な方へ — 獣医師への相談

遺伝性疾患の確定診断や治療方針は、検査キットではなく獣医師が判断します。以下は公的な相談先です。

日本獣医師会(動物病院を探す)

※本セクションには広告(アフィリエイトリンク)を含みます。当サイトは商品の購入・申込みにより成果報酬を受け取る場合があります。遺伝子検査は病気の予防・診断・治療を保証するものではなく、結果は「傾向・情報」を示すものです。

このページは教育目的の情報提供であり、獣医療上の診断・助言ではありません。ペットの健康に関する判断は、必ず獣医師にご相談ください。

この記事を書いた人

森下 慧

森下 慧

編集・執筆(獣医師ではありません)

分子生物学を学び、受託ゲノム解析ラボでの勤務経験を持つ、犬や猫と暮らす愛好家。獣医師ではなく、査読済みの研究論文と公的機関の一次データを読み解き、「診断ではなく情報」として整理・再構成することに徹しています。

Copied title and URL