症例報告は1頭だけ|2012年の研究で読むケアン・テリアのPK欠損症とウエスティ共通変異

ケアン・テリア 日本語
アオイアオイケアンを飼っていて、検査会社の一覧に名前を見つけました。 森下 慧森下 慧PK欠損症の欄ですね。2012年の獣医内科学の論文では、犬のPKLR変異は犬種ごとに違うと整理されています。まず一覧の意味から考えましょう。 アオイアオイ名前があるなら、よくある病気なんでしょうか。 森下 慧森下 慧そこが今日いちばん大事な問いです。同じ論文は「犬のPKLR変異の有病率を調べた正式な調査は無い」と書いています。載っている理由と、分かっている量は別の話です。 アオイアオイ日本で暮らす私に、何ができるのかも知りたいです。 森下 慧森下 慧国内の検査メニュー、受診の順番、保険の約款、子犬を迎えるときの法律まで、日本で確かめられた一次情報を使って一緒に見ていきましょう。

結論:ケアン・テリアの赤血球ピルビン酸キナーゼ(PK)欠損症について、遺伝子レベルで確かめられた症例は世界で1頭しか報告されていません。2012年の研究(Gultekinら、Journal of Veterinary Internal Medicine)がその1頭の組織を調べ、近縁犬種ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア(ウエスティ)と同じPKLR遺伝子エキソン10の6塩基挿入を確認しました。ケアン・テリアの集団でキャリアがどれほどいるかを示すデータは存在しません。「1頭しか報告がないから安全」とも「ウエスティと同じくらい多い」とも言えないのが正確な現状です。一方、犬のPK欠損症は重く、骨硬化症や鉄の過剰蓄積を伴います。2026年10月時点で、国内の主な遺伝子検査窓口4社のケアン向け標準メニューにPK欠損症は入っていません。遺伝子検査はリスク情報であり確定診断ではありません。貧血が疑われるときの診断・治療方針は、必ず獣医師にご相談ください。

ケアン・テリア(ジャパンケネルクラブ=JKCの表記ではケアーン・テリア)は、JKCの犬種紹介によればFCIスタンダードNo.4、原産国イギリス、理想体重6〜7.5kgの小型テリアです。名前は「ケアーン(積石)」に由来し、岩場の穴や積石の中に入って小獣を追い出していたことから来ています。本稿の主題は、この犬種とPK欠損症をつなぐ証拠の量そのものです。検査一覧に名前があることと、リスクの大きさが分かっていることは別の情報だからです。

報告は1頭だけ:2012年の研究は保存組織から何を読み取ったのか

本ページはアフィリエイト広告を含みます。以下は、公開された査読済みの研究エビデンスを横断的に整理した情報提供であり、診断・治療・予防を目的としたものではありません。気になる症状や健康上の判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

ケアン・テリアのPK欠損症は、1992年にSchaerらが症例として報告した1頭にさかのぼります。この報告の本文は今回入手できず、書誌のみを確認しました。そのため犬の年齢や性別、経過についてはここでは書きません。

分子レベルの解析を行ったのは、Inal Gultekin、Giger らによる2012年の研究(Journal of Veterinary Internal Medicine 26巻4号)です。研究チームは、過去に報告されたこのケアン・テリアの脾臓組織を使い、ウエスティで知られていた変異があるかを調べました。論文は、重い貧血・骨硬化症・ヘモクロマトーシス(鉄の過剰蓄積)を示していたこの犬が「ウエスティのPK欠損犬と同じ6塩基挿入を持っていた」と記しています。ただし、この部分の解析データ自体は論文に掲載されていません(data not shown と明記)。

つまり、ケアン・テリアについて言えることの土台はn=1です。これ以外に分子確定されたケアン・テリアの症例は、国内外とも今回の調査では見つかりませんでした。

アオイアオイ1頭だけなら、気にしなくていい気もします。 森下 慧森下 慧自然な感覚です。ただ2012年の論文は、犬のPKLR変異を集団で調べた正式な調査が無いと明記しています。未調査と少数は別物です。

近縁犬種で同じ変異が見つかる理由:ウエスティとの関係を読む

ウエスティのPK欠損症の原因として、エキソン10の6塩基挿入を最初に報告したのはSkellyらの1999年の研究(American Journal of Veterinary Research 60巻9号)です。2012年の論文は、ケアン・テリアが同じ挿入を持っていたことについて「ウエスティと近縁な犬種なのだから、驚くにはあたらない」と述べています。1つの祖先由来の変異が、分岐した近縁の犬種どうしで共有されている、という解釈です。

ここで注意したいのが、ウエスティ側の数字です。同じ2012年の研究では、ペンシルベニア大学獣医学部の検査部門PennGenに依頼されたウエスティ248頭(貧血のある22頭と、貧血のない226頭)で、9%が変異ホモ、35%がヘテロ(キャリア)、変異アレルの頻度は0.26でした。しかし論文自身がこの集団を「強く偏った」試料と書いています。検査に出される犬は、もともと疑いのある家系の犬が多いからです。

この0.26はウエスティの、しかも偏った試料の数字であり、ケアン・テリアに当てはめることはできません。犬種が近いことは「同じ変異が入り得る」ことの説明にはなっても、「同じ割合で広がっている」ことの証拠にはならないのです。ケアン・テリアの頻度は、ゼロでも高いでもなく未測定と理解するのが、現時点でいちばん誠実な読み方です。

日本の登録状況も、この犬種を考えるうえで無視できません。JKCの2025年(1〜12月)犬種別犬籍登録頭数では、ケアーン・テリアは82頭でウェルシュ・テリアと並ぶ64位(全141犬種・302,530頭)でした。同年のウエスティは416頭・33位で、ケアンのおよそ5倍です。過去にさかのぼると、ケアーン・テリアは2005年に1,156頭(32位)、2015年に132頭(56位)、2023年には55頭(74位)と推移し、20年で年間登録はおよそ14分の1になりました。国内の繁殖集団が小さいということは、海外からの導入犬や特定の家系の影響が相対的に大きくなり得るということでもあります。なお、国内のケアーン・テリアの犬種クラブで、公式サイトと健康情報を確認できるものは見つかりませんでした。

病気の仕組みは一段落で:犬のPK欠損症が重いと言われる根拠

赤血球型ピルビン酸キナーゼはPKLR遺伝子がつくる酵素で、ミトコンドリアを持たない赤血球がエネルギー(ATP)を得る解糖系の最終段を担います。これが働かないと赤血球は早く壊れ、溶血性貧血が続きます。遺伝形式は常染色体劣性で、変異を1本だけ持つキャリアは発症せず、キャリアどうしの交配では平均して子の25%が罹患します。2012年の論文は、PK欠損症を犬・猫・人で最も多い赤血球酵素異常症と位置づけています。

犬で特に問題になるのは、貧血以外の変化です。2012年の研究は、PK欠損の犬では約1歳から進行性の骨硬化症が起こり、これは人や猫のPK欠損症にも、犬の他の溶血性貧血にも見られない特徴だと書いています。さらに続発性ヘモクロマトーシス(鉄の過剰蓄積)と肝障害を伴います。ケアン・テリアの1頭も、まさにこの3つ(重い貧血・骨硬化症・ヘモクロマトーシス)を示していました。

予後について同論文は、PK欠損のウエスティとビーグルは持続的な重い貧血がありながら9歳まで生きた例がある一方、バセンジーとラブラドールは適切な支持療法を受けても5歳を超えないようだと記しています。またPennGenの解説は犬の予後を「不良」とし、多くが2歳前後で安楽死に至ると記しています。個々の犬の見通しは担当の獣医師が判断します。これは臨床観察と逸話的な寿命に基づく記述で「平均寿命」ではなく、ケアン・テリアの経過を示したものでもありません。個々の犬の見通しは担当の獣医師が判断します。

一覧に「載っている」とは何を意味するのか:海外3機関の記載を比べる

ケアン・テリアの名前は、海外の主要な情報源・検査機関に確かに登場します。米国のPennGen(ペンシルベニア大学獣医学部)は、ケアン・テリアとウエスティを同じ変異表記 c.1431_1432insAAGACC で検査対象に挙げています。ドイツのLABOKLIN(ラボクリン)の犬PK検査ページもケアン・テリアを掲載し、犬では貧血が常に重度だと説明しています。シドニー大学が運営する動物遺伝病データベースOMIAの犬の項目にも、犬種としてケアン・テリアが並びます。

これらの掲載は「1頭の症例とウエスティと同じ変異」を根拠にしたものと読むのが自然で、その犬種に多いという意味ではありません。OMIA自身が、変異が表に載っていることは「それをDNA検査に使うべきだと自動的に意味するものではない」と警告文を掲げています。

PennGenはさらに、「すべての検査は犬種特異的で、その犬種で知られた変異しか検出しない」「正常という結果は、その特定の変異がこの個体に見つからなかったことだけを意味する」と明記しています。犬のPKLR変異は、バセンジー、ウエスティとケアン、ラブラドール、パグ、ビーグルでそれぞれ別のものが知られています。ケアン・テリアの検査結果を読むときは、どの変異(テリア型の6塩基挿入)を調べたのかを必ず確認してください。変異なしという結果でも、他の原因による貧血が否定されるわけではありません。

日本の検査窓口4社を確かめた結果:ケアンの標準メニューにPKは無い

2026年10月3日時点の、国内主要4社のケアン・テリア向けメニューです。

  • Orivet Japan(オリベットジャパン):「ケアンテリア【セット検査】」は21,400円(税込)で、遺伝性疾患は6項目(クラッベ病、頭蓋下顎骨症、フォン・ヴィレブランド病タイプI、ADAMTS3の上気道症候群リスクマーカー、巨大血小板性血小板減少症、血友病B)。ピルビン酸キナーゼ欠損症は含まれていません。
  • Pontely(ポンテリー):ケアーン・テリアは「Suggest Plan」の犬種で、検査はフォンウィルブランド病タイプIと変性性脊髄症の2項目(税込10,780円)。申込画面には「発症報告などの観点から、Health Plan をご用意できない一部犬種」向けのプランと説明があります。
  • VEQTA:犬種別リストでケアーン・テリアの対象はフォンヴィレブランド病type1のみ。
  • amomag:犬種別の検査項目でケアーン・テリアはフォンウィルブランド病タイプIのみ。

4社とも、ケアンには出血系の項目(Orivetはさらに血友病Bと巨大血小板)を載せていますが、PK欠損症は1社も標準メニューに入れていません。興味深いのは、同じOrivet Japanの「ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア【セット検査】」(21,400円)には「ピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)(テリア系)」が入っていることです。研究上はケアンとウエスティが同じ変異を共有しているのに、国内で買えるパネルではウエスティにだけ載っている。ここにも「証拠の量」の差が表れています。

Orivet Japanには「ケアンテリア【単検査】」(1検査10,700円、追加検査8,000円)もあります。ただしページは単検査を、原則として過去にセット検査を受けた人や、他機関で主要な検査を終えた人向けとしています。単検査の選択肢に「PK(テリア系)」が出るかどうかは、今回確認できませんでした。希望する場合は、申し込む前に事業者へ直接問い合わせてください。商品ページの価格表示は「税込」で、検体の返送料は自己負担、支払方法の表記ページは見つけられませんでした。

Pontelyの支払いはクレジットカード・コンビニ決済・LINE Pay・Amazon Pay(各手数料無料)、銀行振込、代金引換(手数料550円税込)です。入金後、検体を検査機関へ発送する前のキャンセルには税込5,500円のキャンセル費用がかかり、発送後は返金されません。項目を確かめてから申し込むのが安全です。

アオイアオイ海外の大学に直接送ることはできますか。 森下 慧森下 慧ペンシルベニア大学のPennGenは国際発送の手順を公開しています。宣誓書2部に獣医師が署名する形式なので、まずかかりつけ医に相談しましょう。

PennGenの採取・発送案内は、国際発送では荷物の内容を明記した宣誓書を2部(外箱と箱の中に1部ずつ)求め、「USDAの輸入許可は不要」とする宣誓文に獣医師が署名・日付を記入する形式です。頬スワブの検体にも同じ書類が必須かは確認できていないため、採取方法と書類は事前に検査機関へ確認してください。LABOKLINの日本受付窓口、Wisdom PanelやEmbarkの日本向け発送可否、国内で犬の赤血球PK酵素活性を測れる検査機関も、今回は確認できませんでした。2012年の研究は、原因変異が分かっている犬種ではDNA検査のほうが煩雑な酵素検査より正確だとしています。ケアン・テリアはその「既知の変異がある」側の犬種ですが、国内の標準メニューで手軽に受けられる状況ではない、というのが2026年10月時点の事実です。

貧血に気づいたときの受診の順番:国内で回る検査と大学病院の入口

PK欠損症の診断は、遺伝子検査からではなく臨床から始まります。2012年の研究は、PK欠損症を持つことが知られた犬種の慢性で重い溶血性貧血、あるいは網状赤血球(若い赤血球)が大量に増え、直接クームス試験が陰性で、既知の感染症が無い持続性貧血の犬では、PK欠損症を鑑別に入れるべきだとしています。

この入口の検査は、日本のかかりつけ動物病院から外注で回ります。富士フイルムVETシステムズ系の受託検査サービスでは、血液学検査に網状赤血球数、免疫学検査に直接クームステスト、生化学検査に犬のフェリチン(参考基準46〜231 ng/mL)が並んでいます。再生性の貧血かどうか、免疫が関わる溶血かどうか、鉄が過剰になっていないかは国内で確かめられる、ということです。一方、同サービスの血液学ラインアップに赤血球のPK酵素活性はありません。

原因がつかめなければ二次診療施設への紹介に進みます。たとえば日本獣医生命科学大学付属動物医療センター(東京都武蔵野市)は、基本的にかかりつけ病院からの紹介で診療しつつ、紹介状が無い場合でも受付フォームから飼い主が直接予約を申し込めると案内しています。同センターの診療科は16科で、独立した「血液科」は無く、総合診療科の一般内科が「診断が困難な紹介症例を中心に」外来を担当しています。原因不明の溶血性貧血は、まずここが受け皿になると考えられます。

知っておきたい落とし穴もあります。同センターは、輸血できる動物の数や採取できる血液量が随時変わるため、輸血可能かどうかは輸血を行う時点でないと判断できないと明記しています。また土曜日は当面の間、CT・MRI・手術のみで外来診療は行っていません。過去の告知と食い違うので注意してください。支払いは現金かクレジットカードで、電子マネーは使えず、ペット保険の窓口精算もありません。いったん全額を支払い、飼い主が保険会社へ請求する流れです。

受診時は、親犬の検査結果や購入時の書面があれば持参し、解釈は担当の獣医師に委ねてください。

アオイアオイ保険に入っていれば安心ですよね。 森下 慧森下 慧約款しだいです。ある損保の重要事項説明書は、初年度の補償開始時点ですでに発生していた遺伝性の疾患を支払い対象外にしています。加入の時期が効いてきます。

ペット保険の約款を読む:「いつ発症したか」と「予防的な検査」

保険料の区分から見ていきます。第一アイペット損害保険「うちの子」では、ケアーン・テリアは「犬A」(ウエスティは「犬B」)に分類され、0歳の月払保険料は30%プラン1,840円、50%プラン2,480円、70%プラン3,090円です(2026年10月3日取得)。

補償範囲は、約款を読まないと分かりません。ペット&ファミリー損保「げんきナンバーわんスリム」の補償内容ページは、先天性・遺伝性疾患を「かかりやすい病気やケガもカバー」の例に挙げ、「補償開始後に発症した傷病であり、その治療として実施した場合は保険金のお支払い対象」と注記しています。一方、同社の重要事項説明書は免責事由として「初年度契約の保険期間の始期においてすでに発生していた先天性異常または遺伝性の疾患に対する治療」を挙げています。さらに「予防目的で傷病発生前に健康体に行われた…検査」や疾病予防のための検査費用も支払い対象外です。症状のない犬の遺伝子検査費用は、保険では出ないと読むべきでしょう。

同じ重要事項説明書の「引受条件」の欄には、悪性腫瘍・腎不全・糖尿病などと並んで「免疫介在性溶血性貧血」が列挙されています。PK欠損症も溶血性貧血として現れるため、関連する診断歴の扱いは告知の前に保険会社へ確認してください。

約款は版によって変わります。同社の2020年4月版パンフレットは補償対象外として「先天性・遺伝性疾患」を一律に挙げていましたが、現行の補償内容ページは上記のとおり補償開始後の発症を対象にしています。数年前の比較記事は鵜呑みにせず、現行の重要事項説明書で確かめるのが確実です。

請求時の分類にも触れておきます。アニコム損保の『家庭どうぶつ白書2025』の傷病名一覧では、「血液および造血器の疾患」の章に免疫介在性溶血性貧血や原因未定の貧血、骨髄の異常などのコードがありますが、PK欠損症専用のコードはありません。この章には補償対象外の表示もありません。実際の扱いは保険会社に確認してください。

子犬を迎える・繁殖する人へ:動物愛護管理法の書面と、親犬について聞くこと

動物愛護管理法第21条の4と同法施行規則第8条の2は、販売業者が購入者に説明すべき情報に「当該動物の親及び同腹子に係る遺伝性疾患の発生状況」を含めています。さらに飼養管理基準省令(令和三年環境省令第七号)の第2条第7号ヘは、情報提供を受けたことについて購入者に署名等による確認を行わせると定めています。署名の前に、その説明の根拠を聞いておく価値があります。

同号ホは、ブリーダーがペットショップなど第一種動物取扱業者に販売する場合にも、親・同腹子の遺伝性疾患の発生状況などを文書で交付して説明し、受領の署名等による確認を行わせることを求めています。ペットショップで迎える場合も、その内容を尋ねてみてください。販売可能な日齢は、環境省の指針のチェックリストで「57日齢以上」と表現されています。

環境省の『動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針』は、【参考】遺伝性疾患の項で、原因遺伝子が十分に解明されていない疾患もあるため、発症のない個体どうしを交配することや素因の確認をして交配することが重要であり、近親交配は避けるべきだと述べています。PK欠損症の名前は例示にありません。繁殖犬に義務づけられた年1回の健康診断の例には、「炎症や貧血の有無を確認」する血球検査が挙げられていますが、遺伝子検査は例示されていません。

ケアン・テリアの子犬を迎えるときに具体的に聞けることを整理すると、次のようになります。

  • 親犬がPK欠損症の遺伝子検査を受けたことがあるか。受けたなら、どの機関で、テリア型の6塩基挿入を調べたものか。
  • 親犬・同腹子・祖先に、原因不明の貧血や若齢での骨の異常が出た犬がいないか。
  • 海外から導入した血統が入っているか、その犬の検査記録が残っているか。

「検査していない」という答えは、国内の標準メニューにPKが無い以上珍しくありません。答えを聞いたうえで、迎えた後の体調変化に気づける準備をしておくことが大切です。

アオイアオイ結局、うちの子に検査は必要ですか。 森下 慧森下 慧一律の答えはありません。2012年の論文が示すのはn=1の事実と近縁犬種での変異の共有です。繁殖予定や家系の情報を添えて、獣医師と相談するのが筋です。

証拠が薄い犬種での向き合い方:分かっていることと分からないことの線引き

ここまでの内容を、確かさの順に並べ直します。

分かっていること:ケアン・テリアの1頭がPK欠損症で、ウエスティと同じエキソン10の6塩基挿入を持っていた。PennGenとLABOKLINはケアン・テリアを検査対象に掲載している。

分かっていないこと:ケアン・テリア集団でのキャリア頻度と罹患率。1頭以外に分子確定された症例があるか。日本のケアン・テリアでの検査状況。国内でPK酵素活性を測れる場所。

やってはいけない読み方:ウエスティの0.26をケアンに流用すること。「報告1頭」を「リスクゼロ」と読むこと。検査結果だけで病気の有無を決めること。

証拠が薄いこと自体が、飼い主にとって意味のある情報です。海外の研究と検査機関の記載を過大にも過小にも読まず、日々の観察で「いつもと違う」に気づいたら、かかりつけ医での血液検査につなげる。それが、この犬種で現実的にとれる行動です。

よくある質問

Q. ケアン・テリアはPK欠損症になりやすい犬種ですか?
分かっていません。分子確定した症例は2012年の研究の1頭だけで、集団の頻度データはありません。どちらとも言えないのが正確な答えです。

Q. ウエスティのキャリアが多いなら、ケアンも同じくらいでは?
変異の共有は示されていますが、割合が同じという証拠はありません。ウエスティの数字(アレル頻度0.26)も偏った試料に基づくと論文自身が述べています。

Q. 日本でケアン・テリアのPK欠損症の遺伝子検査は受けられますか?
2026年10月時点で、Orivet Japan・Pontely・VEQTA・amomagのケアン向け標準メニューには入っていません。Orivet Japanの単検査で追加できるかは確認できなかったため、事前に問い合わせてください。

Q. 遺伝子検査で「変異なし」なら、貧血の心配はありませんか?
いいえ。検査は特定の変異の有無を見るだけで、PennGenも「正常結果はその変異が見つからなかったことだけを意味する」としています。貧血には他にも多くの原因があります。症状があれば獣医師の診察を受けてください。

Q. どんな様子があれば受診すべきですか?
元気がないなど、いつもと違う様子が続くときは早めに相談してください。犬のPK欠損症では、慢性の溶血性貧血が診断の出発点になります。かかりつけ医で血球検査や網状赤血球数、クームス試験などを行い、原因を絞り込みます。診断と治療方針は獣医師にお任せください。

Q. ペット保険でPK欠損症の治療費は出ますか?
保険会社と約款の版によって異なります。例えばある損保では、補償開始後に発症した遺伝性疾患は対象、加入時点ですでに発生していたものは対象外、症状のない状態での予防的な検査は対象外です。加入前に現行の重要事項説明書を確認してください。

参考文献

写真: Bitjungle, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons.

検査で調べるには

ペットのDNA検査には遺伝性疾患のキャリア(保因)やリスク指標を含むものがありますが、結果は「情報」であって診断ではありません。気になる症状や確定診断が必要な場合は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

この記事で扱う 犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR) を、各サービスが検査対象として明記しているかを、お住まいの地域別にまとめました(✅=対象/❓=要確認(公式に明記なし)/❌=対象外)。

日本国内にお住まいの方

Pontely 犬の遺伝子検査
🌐 サービス提供: 日本国内向け(海外からの検体返送は非対応)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
自宅スワブの犬の遺伝子検査。犬種別のおすすめ項目として MDR1・PRA(進行性網膜萎縮症)を扱う(公式 疾患ページで確認)。日本国内向けサービス。
カホテクノ 遺伝子検査
🌐 サービス提供: 日本国内向け(海外からの検体返送は非対応)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❌ 対象外
福岡の検査機関。MDR1 を公式に明記(コリー系対象、EDTA 全血)。DM は要確認。
VEQTA 犬 遺伝性疾患DNA検査
🌐 サービス提供: 日本国内向け(海外からの検体返送は非対応)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❌ 対象外
愛媛大発ベンチャー(大阪/福岡)。MDR-1・DM・PRA各型・vWD・HUU・EIC・第VII因子(F7)等を公式に個別明記。オンライン注文可。
アマネセル 遺伝子検査
🌐 サービス提供: 対応地域は公式に明記なし(要確認)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❌ 対象外
獣医師経由の病理検査ラボ。MDR1 を明記。DM は要確認。
岐阜大学・鹿児島大学 DM(SOD1) 検査
🌐 サービス提供: 日本国内・主治医(獣医師)経由のみ
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❓ 要確認
大学の SOD1(DM) 検査。申込は動物病院経由。結果は発症リスクであって診断ではありません。MDR1 は要確認。
アニコム DM(SOD1) 検査
🌐 サービス提供: 日本国内向け(海外からの検体返送は非対応)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❓ 要確認
コーギー等の繁殖プログラムで大規模実施。国内での SOD1(DM) 検査の選択肢。MDR1 は要確認。
Orivet Japan(オリベット)犬 DNA検査
🌐 サービス提供: 日本・アジア居住者向け(検体は国内ラボへ返送)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
犬のDNA検査(自宅スワブ・日本語/円建て・国内決済)。品種別セット/単項目で遺伝性疾患リスク+形質を提供する大手。MDR1・DM・PRA 等の個別対象は品種別ページで要確認。
amomag(アモマグ)犬 遺伝子検査
🌐 サービス提供: 日本国内向け(海外からの検体返送は非対応)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❌ 対象外
犬の遺伝子検査(自宅スワブ・低価格帯)。犬種別に遺伝性疾患リスクを解析。個別遺伝子の対象は公式で要確認。
エアデック mini ラフォラ病遺伝子変異検査
🌐 サービス提供: 日本国内・主治医(獣医師)経由のみ
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❌ 対象外
国内の検査ラボ。Epm2b(NHLRC1)遺伝子変異を単項目で解析し、変異ホモ/ヘテロ/野生型を判定。検体は全血0.5ml以上(抗凝固剤入り・冷蔵送付)で、スワブ不可・動物病院経由での依頼。報告は受付日から2〜5日。Epm2a等の他要因によるラフォラ病は解析範囲外と明記。

日本国外にお住まいの方

※ キットの購入・国際配送が可能でも、検体の返送・解析・結果受領といったサービス提供が居住国で受けられる保証はありません。各サービスの「サービス提供」地域と返送方法を注文前に必ずご確認ください。

Embark (Breed + Health)
🌐 サービス提供: US/カナダ/EU/UK/豪で利用可(USラボ返送・国際は返送料自己負担)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
Cheek swab; multi-condition health panel that includes MDR1 and DM (SOD1). Also on Amazon (US health kit; JP = parallel-import).
Orivet
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
Standalone tests incl. MDR1 (ivermectin sensitivity) and Degenerative Myelopathy (DM). GenoPet kit also on Amazon.
Paw Print Genetics
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❓ 要確認
Clinical-grade lab; standalone MDR1. Other conditions incl. DM: verify on the product page.
LabGenVet (Canada)
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
カナダの獣医遺伝学ラボ。NHLRC1 のラフォラ病検査を、ビーグル/チワワ/ミニチュア・ワイヤーヘアード・ダックスフンド/ニューファンドランド/ウェルシュ・コーギー・ペンブロークについて掲載。郵送受付、検体種と国際発送は要問合せ。
Feragen
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
Genomia
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
チェコ・プルゼニのEUラボ。NHLRC1 のラフォラ病検査を12犬種向けに単項目で掲載。飼い主が直接注文でき、スワブキットの提供あり。

その他の国・地域で提供されているサービス(お住まいの地域では入手できない場合があります)

Wisdom Panel Premium
🌐 サービス提供: US・カナダ+UK(各地域ラボ)。EU本土は要確認
提供地域: 米国 / 英国 / EU
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
Cheek swab; 265+ conditions including MDR1 and DM (SOD1). Lafora disease is reported as a LINKAGE test (marker-based prediction, not the NHLRC1 repeat itself) — the company itself advises confirming with a direct test before breeding decisions.
Basepaws Dog DNA
🌐 サービス提供: 実質US国内のみ(国際は返送を自己手配・返送先は米国ラボ)
提供地域: 米国
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
Dog health panel includes MDR1. DM (SOD1): verify on the product page. Also on Amazon.
UC Davis VGL (dog)
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
提供地域: 米国
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
University lab; standalone MDR1 and DM (SOD1) tests, owner-orderable.
WSU PrIMe / VCPL (discovered MDR1)
🌐 サービス提供: 対応地域は公式に明記なし(要確認)
提供地域: 米国 / 英国 / EU
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❌ 対象外
Dr. Mealey’s lab — the group that discovered ABCB1-1Δ. Direct-to-owner MDR1 test. DM: verify.
Breedwise DNA
🌐 サービス提供: 国際は要問合せで対応可(国別送料別)
提供地域: 米国
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❌ 対象外
Standalone MDR1 oral swab (US). DM: verify on the product page.
OFA / University of Missouri
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
提供地域: 米国
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❌ 対象外
The originating DM lab (Awano 2009). SOD1 c.118G>A test; result = risk class, not a diagnosis. MDR1: verify.
Wisdom Panel Premium
🌐 サービス提供: 対応地域は公式に明記なし(要確認)
提供地域: EU
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
Laboklin
🌐 サービス提供: EUの自社ラボ網+UK(他地域は個別対応)
提供地域: EU / 英国
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
GLBizzia(格致博雅)ペット遺伝子検査
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提供地域: 中国
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):❓ 要確認
Urban Animal (India)
🌐 サービス提供: インド国内のみ(国外は要問合せ)
提供地域: インド
犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR):✅ 対象
India-based broad panel (130+ conditions); MDR1 / DM not explicitly published — verify.

健康・症状が心配な方へ — 獣医師への相談

遺伝性疾患の確定診断や治療方針は、検査キットではなく獣医師が判断します。以下は公的な相談先です。

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この記事を書いた人

森下 慧

森下 慧

編集・執筆(獣医師ではありません)

分子生物学を学び、受託ゲノム解析ラボでの勤務経験を持つ、犬や猫と暮らす愛好家。獣医師ではなく、査読済みの研究論文と公的機関の一次データを読み解き、「診断ではなく情報」として整理・再構成することに徹しています。

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