アオイラブラドールの貧血が遺伝すると聞いて不安です。
森下 慧2012年の研究で、ラブラドール・レトリーバーに固有のPKLR遺伝子変異c.799C>Tが同定されています。まずそこから整理しましょう。
アオイ犬種ごとに変異が違うって本当ですか。
森下 慧本当です。米国ペンシルベニア大学のPennGenは「すべての検査は犬種特異的」と明記し、犬では6犬種を対象に5種類の変異を扱っています。
アオイうちの子も検査したほうがいいのでしょうか。
森下 慧そこが今日の本題です。報告例の少なさ、国内で受けられる検査の実情、海外ラボに出す実務まで順に見ていきます。
結論:ラブラドール・レトリーバーの赤血球ピルビン酸キナーゼ(PK)欠損症は、PKLR遺伝子のc.799C>T(p.Gln267*)というナンセンス変異が原因で、米国PennGenと欧州ラボクリンの犬種別検査リストに本犬種が収載されています。ただし2012年の原著論文が本犬種について解析したのは計7頭(同胞2頭と非血縁の5頭)で、変異を持っていたのは同胞2頭だけでした。論文自身が「限られた数頭、おそらく単一の家系に限局しているようだ」と述べています。「ラブラドールに広がっている病気」ではありません。一方で犬のPK欠損症は猫より予後が重く、骨髄線維症・骨硬化症と続発性ヘモクロマトーシスを伴って若くして命を落とします。最も実務的に重要なのは、犬のPKLR変異は犬種ごとに別物で、「PK欠損症の検査」と名前が同じでも自分の犬種の変異を見ているとは限らないという点です。日本国内でも本犬種の項目を扱う窓口はありますが数は限られます。遺伝子検査は確定診断ではありません。慢性的な貧血や運動をいやがる様子があれば、診断・治療方針は必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
ラブラドール・レトリーバーは、一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)の2025年(1〜12月)犬種別犬籍登録頭数で3,410頭・全141犬種中19位の大型犬です。公益財団法人日本盲導犬協会も「盲導犬として日本で多く活躍している犬種は、ラブラドール・レトリーバーとゴールデン・レトリーバーです」と公表しており、家庭犬としても使役犬としても日本に根を張っています。
赤血球ピルビン酸キナーゼ欠損症(以下PK欠損症)は、赤血球のエネルギー産生を担う酵素を欠くために赤血球が早く壊れる常染色体劣性の遺伝性疾患です。犬では1994年のバセンジーの報告以来、複数の犬種でそれぞれ別の原因変異が見つかってきました。本稿では確定した研究事実だけを積み上げ、日本の飼い主がどう動けるのかを一次情報で整理します。
PKLR遺伝子とPK欠損症 ── 30年かけて解かれてきた病気
赤血球型ピルビン酸キナーゼ(R-PK)は解糖系の最終段階でATPを作る酵素です。赤血球はミトコンドリアを持たずこの経路だけがエネルギー源のため、酵素が働かないとATPが枯渇して赤血球が早期に壊れ、持続的な溶血性貧血が起こります。原因遺伝子PKLRは犬の第7染色体にあります。最初に原因変異を突き止めたのは、Whitney、Goodman、Bailey、Lothropらによる1994年の研究(Experimental Hematology 22巻9号)で、バセンジーのエキソン5に1塩基欠失を同定しました。続くSkelly、Wallace、Rajpurohit、Wang、Gigerらの1999年の研究(American Journal of Veterinary Research 60巻9号)は、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアのエキソン10に6塩基の挿入を報告しています。
犬のPK欠損症が猫と大きく違うのは経過の重さです。国際的な動物遺伝性疾患データベースOMIA(OMIA:000844-9615)は、罹患犬は若い成犬期に重度の再生性貧血を示し、1歳までに中等度の肝脾腫、続いて進行性の骨硬化症と骨髄線維症が進み、5歳までに骨髄不全と肝不全に至るのが典型だと記載しています。検査機関ラボクリンも、原因不明の進行性骨髄線維症・骨硬化症が肝不全と並ぶ主要な死因で、罹患犬の多くは4歳前に亡くなると説明しています。キャリアは無症状ですが、赤血球のPK活性は正常のおよそ半分です。
アオイ酵素がひとつ足りないだけで骨まで固くなるんですか。
森下 慧仕組みはまだ解明されていません。ラボクリンは骨髄線維症と骨硬化症を「原因不明」と記載し、2012年の原著論文も「いまだ説明のつかない骨硬化症」と書いています。
なぜラブラドールが検査対象なのか ── c.799C>Tの報告はまだ少ない
本犬種の変異を同定したのは、Inal Gultekin、Raj、Foureman、Lehman、Manhart、Abdulmalik、Gigerらによる2012年の研究(Journal of Veterinary Internal Medicine 26巻4号)です。エキソン7の1塩基置換c.799C>Tがグルタミンを終止コドンに変えるナンセンス変異で、本来574アミノ酸あるR-PKが267番目で途切れ、活性部位の大半を失います。
ただし報告された罹患例は同じ家庭で暮らす2頭の同胞です。発端の2歳の雄(保護犬)は重度の再生性貧血と骨硬化症を示し、血清フェリチン2,661ng/mL(基準80〜800)と鉄が過剰に蓄積していました。同腹きょうだいは予後不良のため2歳で安楽死となり、剖検では肝鉄濃度が基準上限の31倍でした。PK欠損症の犬への鉄補給は禁忌であると論文は明記しています。
ここで頭数の読み方に注意が必要です。この研究で本犬種として解析されたのは同胞2頭と非血縁の5頭の計7頭で、c.799C>Tを持っていたのは同胞2頭だけでした。残る5頭も貧血を示しており(うち1頭はクームス試験が強陽性の免疫介在性溶血性貧血)、それでもこの変異については野生型のホモ接合だったと論文は記録しています。「7頭のうち何頭かが保因していた」わけではありません。
著者らは、ラブラドールとパグの変異は「限られた数頭、おそらく単一の家系に限局しているようだ」と述べ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアやビーグルの変異は「犬種内でありふれており、広く分布しているようだ」と対比しています。ただし同じ考察で、ここで報告した各変異の頻度は集まった検体の選ばれ方に強く偏っていると断り、「この報告で調べた犬は、貧血の犬とその血縁に大きく偏っていた」と明記しています。著者らはこうした偏りに加え、検査済み犬の公開登録制度が無いことが頻度の評価をいっそう難しくしているとも述べています。したがって本犬種は「広がっている病気」ではなく、報告例が少ないうちに繁殖前検査で広がりを防ぐ意味がある疾患と位置づけるのが正確です。
アオイたった2頭の報告で検査項目になるものですか。
森下 慧重篤度で判断されているからです。PennGenは罹患犬の余命が著しく短く、2歳前後で安楽死に至るのが一般的だと記載しています。
「PK欠損症の検査」は犬種ごとに別物 ── 注文する前に確認すべきこと
ここが本稿でいちばんお伝えしたい実務です。猫のPK欠損症は主要な品種をまたいで同じ変異が共有されていますが、犬はそうではありません。前掲の2012年の論文は、バセンジー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアとケアーン・テリアの既知変異に加え、ラブラドールのc.799C>T、パグのc.848T>C、ビーグルのc.994G>Aを報告し、PKLRが「これまでに観察された犬の遺伝子のなかで最も多くの変異が見つかっている遺伝子」になったと述べています。
この構造は検査の設計にそのまま反映されています。ペンシルベニア大学獣医学部のPennGenはPK欠損症検査(検査番号30)の対象としてバセンジー、ビーグル、ケアーン・テリア、ラブラドール・レトリーバー、パグ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアの6犬種を挙げ、「すべての検査は犬種特異的であり、記載された犬種で既知の変異しか検出しない。正常という結果は、その特定の変異がこの個体で見つからなかったことを意味するにすぎない」と明記しています。ラボクリンの対象リストは、この6犬種にラブラドゥードルとオーストラリアン・ラブラドゥードルを加えた8犬種です。ラブラドールを祖先に持つ犬種まで対象に含まれている点も、対象変異が犬種ごとに決まるこの検査の性格を示しています。
つまり日本の飼い主が「PK欠損症の検査を」と依頼するときは、どの変異を見る検査なのかを事業者に確認する必要があります。同じ「ピルビン酸キナーゼ欠損」でも、パグ向けのc.848T>Cを見る検査ではc.799C>Tは検出できません。
この限界を裏づける症例も出ています。Ma、Kuo、Liuらによる2025年の研究(Animals 15巻24号3634、国立中興大学)は、台湾の生後5か月のミニチュア・シュナウザーに、既知のどの犬種変異とも異なるPKLRエキソン8の点変異を同定しました。この個体はバベシア症の治療後も重度の貧血が続き、抗菌薬・抗原虫薬・免疫抑制剤のいずれにも反応せず、ゲノムDNAとcDNAの両方を解析して初めて原因が判明しています。既存の犬種別パネルでは見つけられなかったはずの症例です。
アオイ名前が同じなら中身も同じだと思っていました。
森下 慧そこが落とし穴です。PennGenは「正常という結果はその変異が見つからなかったことを意味するだけ」とわざわざ注意書きしています。
どんな症状で気づくのか ── 貧血から診断までの落とし穴
徴候は貧血そのものです。ラボクリンは臨床症状として運動不耐性、虚弱、心雑音、脾腫を挙げ、犬では貧血が常に重度(PCV 10〜20%)になると説明しています。国内の遺伝子検査サービスPontelyの疾患解説も、1歳になる前から運動への不耐性を示し口の粘膜が蒼白になること、持続的な溶血で肝臓に鉄が沈着し肝硬変を起こす場合があることを記載し、有効な治療法はなく輸血は対症療法にとどまると明記しています。
診断の出発点はあくまで臨床です。散歩を途中でいやがる、歯ぐきや舌が白い、心雑音を指摘された、といった所見から血球計算(CBC)で再生性貧血を確認し、免疫介在性溶血性貧血や感染症を除外していきます。ここで注意したいのが、PK欠損症の犬は免疫介在性溶血性貧血として治療されがちだという点です。前掲の2012年の論文も、検体が送られてきた犬の多くが免疫介在性溶血性貧血や感染症として先に治療され、クームス試験は陰性で治療にも反応しなかったと記録しています。
もうひとつの落とし穴は酵素活性の測定です。PK欠損症の犬では赤血球に本来出ないM型ピルビン酸キナーゼが異常に発現するため、酵素活性を測ると値がかえって高く出ることがあり、前掲論文の罹患ラブラドールでは対照犬の215%が記録されました。だからこそ遺伝子検査が意味を持つのですが、検査そのものは確定診断ではありません。結果票は診察の材料として獣医師に渡してください。
日本で検査を受けるには ── 国内の実情と海外ラボの実務
国内の飼い主向けサービスPontely(ポンテリー)は「ピルビン酸キナーゼ欠損」を疾患項目として扱い、引用文献にも前掲の2012年の論文を挙げています。ただし2026年9月時点で犬種別のおすすめ検査項目にこの疾患が入っているのはパグのみで、ラブラドール・レトリーバーのおすすめ項目は変性性脊髄症(DM)、進行性網膜萎縮症(PRA-PRCD)、運動誘発性虚脱(EIC)の3疾患です。料金はおすすめ3項目のHealth Planが税込15,400円、1項目のStarter Planが税込5,500円、追加検査は1疾患あたり税込5,500円。本犬種でPK欠損症を希望する場合は、ラブラドールのc.799C>Tを対象にできるかを問い合わせフォームで確認するのが先になります。
本稿で確認した国内6社のなかで、本犬種のPK欠損症を明示して扱っていたのはオリベットジャパン(Orivet)だけでした。同社のラブラドール・レトリバー向けセット検査の項目一覧には「ピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)(ラブラドール系)」が入っています。疾患名にわざわざ「ラブラドール系」と犬種名が添えられていること自体が、犬のPK検査が犬種特異的であることの表れです。料金はセット検査21,400円、単検査10,700円、追加検査は1項目あたり8,000円(いずれも1頭あたりのサイト表示価格、返送料は自己負担)。頬のブラシで採取して大阪の同社宛に返送すれば、海外ラボへの発送は同社が代行するため、飼い主が英語でやりとりする必要はありません。結果は返送から通常4〜7週間、レポートは英語ですが日本語の用語解説書と結果の見方ガイドが付きます。
一方、株式会社VEQTAのラブラドール向けは変性性脊髄症、運動誘発性虚脱、進行性網膜萎縮症(prcd)など6項目(単項目4,950円・税込、6項目の全項目セット割は21,450円・税込)で、PK欠損症は入っていません。ケーナインラボ、BioArt日本小動物繁殖研究所、どうぶつ検査センターの3社も、2026年9月時点でPK欠損症を掲載しているのは猫の項目だけです。国内の犬メニューは進行性網膜萎縮症・変性性脊髄症・運動誘発性虚脱が中心という構図になっています。
海外ラボに直接送る選択肢もあります。PennGenのPK欠損症検査は1件75.00米ドル、検体は頬ブラシ・スワブまたは新鮮EDTA血ですが、同ラボは検査キットを提供していないため採取容器は自分で用意します。英国ラボクリン(LABOKLIN UK)は同じ検査(検査番号8015)を48.00ポンド(VAT込)で提供し、検体はEDTA採血管の全血0.5〜1mlまたは頬粘膜スワブ、所要期間は2〜3週間と公開しています。いずれも料金は外貨建てで為替とカードの海外利用手数料に左右され、国際発送には税関告知書の記入が必要、書類も英語です。発送前に、利用する国際宅配便事業者が犬の頬スワブや血液検体を受託できるか、どの書類が必要かを問い合わせておくと確実です。直接送るのが負担なら、国内で代行してくれる窓口を使うか、検査会社と取引のあるかかりつけ動物病院に相談するのが現実的です。
アオイ扱っている会社がほとんど無いのはなぜですか。
森下 慧各社とも選定理由は公表していません。国内6社を見ると、ラブラドール向けと明示するのは1社だけで、他は猫の項目やパグ向けか、扱い自体がありません。
診断がついた後 ── 日本の輸血体制と二次診療への導線
治療は対症療法が中心で、貧血が進めば輸血が必要になります。ここで日本固有の事情があります。東京都獣医師会南多摩支部(南多摩獣医師会)は血液バンク登録制度の案内で、「人の医療のように動物の血液バンクがない」ため各病院や飼い主の知人の動物から血液を得ているのが現状であり、「必要とする血液型や血液の量が確保できないことも多く、きちんと輸血が受けられず、亡くなるケースも少なくありません」と説明しています。犬の血液型はDEAという分類で1から13までに分けられ、輸血では1番が(+)か(-)かが最も重要です。同支部は飼い主が事前に血液型検査とドナー登録を行う制度を運用しています。登録の費用は通常の血液型検査料金(採血料込み)の半額にあたる3,150円で、登録時に赤血球数・白血球数・栄養状態の検査も無料で受けられ、血液型カードが発行されると案内されています。実際に献血した犬や猫が大ケガや病気で輸血を必要とすることになった場合は、優先的に無料で輸血を受けられるとも記載されています。ただしこれは東京都獣医師会南多摩支部が独自に運用している制度で、同様の仕組みがあるかどうかは地域によって異なります。お住まいの地域でドナー登録の制度があるか、かかりつけ医が輸血にどう対応しているかは、個別に確認しておく必要があります。
骨髄検査や鉄過剰の評価が必要になれば二次診療の出番です。ただし日本の二次診療は原則として紹介制で、東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センターも「当センターは二次診療施設のため、かかりつけの動物病院からの予約診療のみ行なっております」と明記しています。現実的なルートはかかりつけ医に紹介を依頼することです。近くの二次診療施設に心当たりがない場合も、飼い主が直接予約を取ろうとするより、かかりつけ医に地域の紹介先を尋ねたほうが早く進みます。紹介の要否・必要書類・受け入れ可能な診療科は施設ごとに異なるため、そこもかかりつけ医に確認してもらうのが確実です。繰り返し輸血が必要になりうる疾患だからこそ、かかりつけ医の輸血対応と地域の献血登録の仕組み、紹介ルートを症状が出る前に確認しておく価値があります。
アオイ輸血が必要になったときすぐ受けられるとは限らないんですね。
森下 慧南多摩獣医師会は血液型や量が確保できず亡くなる例も少なくないと書いています。だから事前の段取りが効きます。
子犬を迎える前に ── 繁殖・販売の制度とペット保険
日本で犬猫を販売する者(繁殖して販売するブリーダーを含む)は、動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)上の第一種動物取扱業(販売)の登録を受ける必要があります。環境省が定める犬猫の飼養管理基準(令和3年環境省令第七号)は、雌犬の交配時年齢を原則6歳以下、生涯出産回数を6回までとし、繁殖実施状況記録台帳の5年間保存や、獣医師の診断に従って繁殖に適さない個体を繁殖させないことを義務づけています。注目したいのは、繁殖に関する基準(第6項)は年齢・回数・獣医師の診断を軸にしており、遺伝子検査の実施や開示を求める規定は置かれていない点です。
JKCは「遺伝子疾患について考えよう」で、犬の遺伝子疾患は現在700ほどが特定され、そのうち200以上で原因変異が判明していると説明し、「重篤度の高い疾患から、対処していく必要があります」としています。同時に「クリアと判明している犬との交配であれば、交配相手が未検査であったとしても、すべての子犬はアフェクテッドにはならず、その遺伝子疾患は発症しません」と述べ、「キャリアと判定された健康な犬を積極的に排除することは、動物倫理に反する行為です」とも明記しています。PK欠損症は重篤度の高い疾患であり、キャリアを排除するのではなくクリアとの交配で回避する考え方が国内の指針としても示されているわけです。子犬を迎える際に両親犬の検査状況を知る方法は、ブリーダーに直接開示を求めることに尽きます。
ペット保険も押さえましょう。アニコム損害保険は病気について契約始期日から30日間の待機期間を設け、待機期間中に発症した病気は待機期間終了後も補償対象外になると案内しています。第一アイペット損害保険も、保険期間が始まる前から被っていた傷病と、開始前に既に獣医師の診断により発見されていた先天性異常を支払対象外に挙げています。両社とも遺伝性・先天性であること自体で一律に除外するのではなく、契約開始前に発症・診断されていたかで線を引いています。PK欠損症は1歳前後から徴候が出ることが多く、症状が出てから加入してもその疾患は補償されない可能性が高いということです。免責条件は各社で異なるため、加入前に約款と告知書を確認してください。
ラブラドールの飼い主が今日からできること
- 検査を依頼するときは「PK欠損症」という名称だけで決めず、ラブラドールのc.799C>Tを対象にしているかを事業者に確認する
- 国内窓口で扱いがなければ、海外ラボへの送付を代行する事業者やかかりつけ医の取り寄せを検討する
- 散歩を途中でいやがる、歯ぐきや舌が白い、心雑音を指摘された、といったサインを貧血の徴候として覚えておく
- 鉄剤やサプリメントを自己判断で与えない(鉄過剰を悪化させるため禁忌とされている)
- 輸血と二次診療への導線を、症状が出る前にかかりつけ医と確認しておく
- 繁殖を検討するとき・子犬を迎えるときは、交配相手や両親犬の検査結果をブリーダーに直接確認する
本記事は情報提供を目的としたもので、遺伝子検査の結果は発症リスクの把握と繁殖判断の材料であって確定診断ではありません。個別の診断や治療方針は必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
よくある質問
Q. ラブラドール・レトリーバーのPK欠損症はどのくらい多いのですか?
頻度を示す一般集団のデータはありません。2012年の原著論文が本犬種として解析したのは同胞2頭と非血縁の5頭の計7頭で、変異を持っていたのは同じ家庭で暮らす同胞2頭だけです。残る5頭も貧血を示していましたが、この変異については野生型でした。著者らは「限られた数頭、おそらく単一の家系に限局しているようだ」と述べ、さらにこの論文の数字は貧血の犬とその血縁に大きく偏った検体から得たものであり、検査済み犬の公開登録制度が無いことが頻度の評価をいっそう難しくしているとも述べています。
Q. 「PK欠損症の検査でクリアだった」と言われれば安心してよいですか?
どの変異を対象にした検査だったかによります。PennGenは「すべての検査は犬種特異的であり、正常という結果はその特定の変異がこの個体で見つからなかったことを意味するにすぎない」と明記しています。2025年には既知のどの犬種変異とも異なるPKLR変異の症例も報告されました。遺伝子検査は確定診断ではないため、貧血の症状があれば獣医師の診察を受けてください。
Q. 日本国内でラブラドールのPK欠損症検査は受けられますか?
受けられます。2026年9月時点で、オリベットジャパンのラブラドール・レトリバー向けセット検査に「ピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)(ラブラドール系)」が含まれています(セット検査21,400円/1頭あたりのサイト表示価格、結果まで通常4〜7週間)。Pontelyも疾患項目としては扱っていますが犬種別のおすすめ項目に入るのはパグのみで、VEQTA・ケーナインラボ・BioArt・どうぶつ検査センターでは犬のPK欠損症は扱われていません。PennGen(75.00米ドル)やラボクリンUK(48.00ポンド/VAT込)へ直接送る道もあります。
Q. キャリア(ヘテロ接合)だと分かったら繁殖から外すべきですか?
JKCは「キャリアと判定された健康な犬を積極的に排除することは、動物倫理に反する行為です」とし、一律排除がブリーディングストックの不足と近親交配を招く可能性まで指摘しています。同時に、クリアと判明している犬との交配であれば子犬がアフェクテッドになることはないとも説明しています。繁殖計画は獣医師やブリーダーと相談してください。
Q. 貧血がひどいと言われました。鉄のサプリメントを飲ませてもよいですか?
自己判断で与えないでください。PK欠損症では慢性溶血によって鉄が体内に蓄積し、続発性ヘモクロマトーシスを起こします。2012年の原著論文は、この病気の犬への鉄の補給は禁忌であると明記しています。投与はかかりつけの獣医師に相談してから判断してください。
参考文献
- Inal Gultekin G, Raj K, Foureman P, Lehman S, Manhart K, Abdulmalik O, Giger U (2012). “Erythrocytic Pyruvate Kinase Mutations Causing Hemolytic Anemia, Osteosclerosis, and Secondary Hemochromatosis in Dogs.” Journal of Veterinary Internal Medicine 26(4):935-944.
- Skelly BJ, Wallace M, Rajpurohit YR, Wang P, Giger U (1999). “Identification of a 6 base pair insertion in West Highland White Terriers with erythrocyte pyruvate kinase deficiency.” American Journal of Veterinary Research 60(9):1169-1172.
- Whitney KM, Goodman SA, Bailey EM, Lothrop CD Jr (1994). “The molecular basis of canine pyruvate kinase deficiency.” Experimental Hematology 22(9):866-874.
- Ma TY, Kuo CJ, Liu PC (2025). “From Mutation to Manifestation: Evaluation of a PKLR Gene Truncation Caused by Exon Skipping in a Schnauzer Terrier.” Animals 15(24):3634.
- OMIA:000844-9615 “Pyruvate kinase deficiency of erythrocytes in Canis lupus familiaris (dog)”(犬のPKLR変異一覧・臨床像)
- PennGen, University of Pennsylvania School of Veterinary Medicine. “Pyruvate Kinase (PK) Deficiency”(対象犬種・犬種特異性の注意書き・検体・費用)
- LABOKLIN. “Pyruvate kinase deficiency (PK)”(対象犬種リスト・骨髄線維症と肝不全)/LABOKLIN UK. “PK Deficiency”(価格・検体・所要期間・臨床症状)
- 一般社団法人ジャパンケネルクラブ.「犬種別犬籍登録頭数」(2025年1〜12月)/同「遺伝子疾患について考えよう」(重篤度に基づく判断・キャリアの扱い)
- 公益財団法人日本盲導犬協会.「盲導犬ってどんな犬?」(盲導犬として活躍する犬種)/同「盲導犬のデータ・資料・研究」(候補犬の健康検査と遺伝的改良)
- Pontely.「お申込みプランについて」(犬種ごとのおすすめ検査項目・ピルビン酸キナーゼ欠損の疾患解説)/同「自宅で簡単!犬の遺伝子検査サービス」(プラン料金・追加検査料金)
- Orivet(オリベットジャパン).「セット検査 ラブラドールレトリバー」(検査項目にピルビン酸キナーゼ欠損症(ラブラドール系)を収載)/同「検査料金一覧」/同「よくある質問」(返送先・海外ラボ発送の代行・所要期間・レポート言語)
- VEQTAオンラインストア「ラブラドール・レトリーバー」(対象検査項目)/株式会社VEQTA.「検査料金」
- 株式会社ケーナインラボ.「遺伝子検査」(犬・猫の検査項目一覧)/一般社団法人日本小動物繁殖研究所(BioArt).「遺伝子病検査」(品種別検査項目)/どうぶつ検査センター株式会社.「遺伝子検査」(検査項目・検体・日数)
- 南多摩獣医師会(東京都獣医師会南多摩支部).「血液バンク登録制度のよくあるご質問」(犬の血液型DEA・国内の輸血事情・ドナー登録)
- 東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センター.「獣医師の方へ」(二次診療施設としての紹介制)
- 環境省.「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針」6. 動物を繁殖の用に供することができる回数等に関する事項(基準省令=令和3年4月1日環境省令第7号の解説)/同「動物の愛護及び管理に関する法律の概要」
- アニコム損害保険株式会社.「ペット保険の待機期間って?いつから補償開始?」/同 よくあるご質問「先天性異常や、保険契約が始まる前に受傷したケガ、発症した病気は補償の対象ですか?」
- 第一アイペット損害保険株式会社.「保険金をお支払いできない主な場合」
検査で調べるには
ペットのDNA検査には遺伝性疾患のキャリア(保因)やリスク指標を含むものがありますが、結果は「情報」であって診断ではありません。気になる症状や確定診断が必要な場合は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
この記事で扱う 犬のピルビン酸キナーゼ欠損症 (PKLR) を、各サービスが検査対象として明記しているかを、お住まいの地域別にまとめました(✅=対象/❓=要確認(公式に明記なし)/❌=対象外)。
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日本国外にお住まいの方
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