ジャーマン・シェパードの下垂体性小人症とLHX3|2011年ユトレヒト大学が突き止めた「7塩基」の欠失と検査の意味

生後8週のジャーマン・シェパード・ドッグの子犬 日本語
アオイアオイうちの12週齢シェパード、兄弟犬の体重の半分止まりで…。 森下 慧森下 慧Tsai らの2012年の GWAS 論文に、出生時は見分けがつかず2〜3か月齢で伸びの止まりが露わになる、とあります。週1回の体重記録を。 アオイアオイ綿毛みたいな毛が、硬い上毛に替わらなくて。 森下 慧森下 慧二次毛の居残りと一次毛(ガードヘア)の欠落は、Voorbij らの2011年論文が筆頭に挙げる徴候。ただ、毛並み一点で病名を当てるのは無謀。 アオイアオイ頬こすりの DNA キットで決着しますか? 森下 慧森下 慧読み取れるのは LHX3 の決まった番地だけ。東京大学の Iio らは GH1 異常のチワワを2020年に報告しており、矮小の筋書きは一本ではありません。

結論:ジャーマン・シェパード・ドッグ(GSD)の下垂体性小人症、正式には複合下垂体ホルモン欠乏症。2011年、オランダ・ユトレヒト大学の Voorbij・Kooistra・Leegwater らが突き止めた原因は、LHX3 遺伝子イントロン5で GCGCCCC 系の7塩基反復が1個抜け、75塩基→68塩基に縮む欠失(c.622-37-31del)でした。スプライス部位は無傷なのに、寸足らずのイントロンが切り出し損ねられ、成長ホルモン・TSH・プロラクチンが欠乏、ゴナドトロピン放出も鈍ります。欠失を父母双方から受け取った個体だけが発病する常染色体劣性型ゆえ、片側保有の犬を2頭そろえて交配しない限り、欠失を2コピー持つ del/del の子犬は誕生しません。一方、DNA 判定はリスクの目安どまりで確定診断の代わりにならず、GH1 など別ルートの小人症も実在します。同腹の兄弟より明らかに育たない、子犬の綿毛が抜け落ちる、活気が乏しい——そんな兆しがあれば早めに動物病院へ。病名に判を押すのは、獣医師の IGF-1・TSH 測定、GHRH 刺激試験、CT/MRI です。

GCGCCCC が1個消えた:75→68塩基の「切りしろ不足」

本ページはアフィリエイト広告を含みます。以下は、公開された査読済みの研究エビデンスを横断的に整理した情報提供であり、診断・治療・予防を目的としたものではありません。気になる症状や健康上の判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

出発点は、ユトレヒト大学伴侶動物臨床科に連れてこられた犬たちの血液。Voorbij らは2011年の PLoS ONE 論文で、小人症 GSD 23頭・健常な親9頭・健常な同腹17頭・血縁のない正常発育 GSD 37頭ほかをゲノムワイドに走査し、怪しい区間を犬9番染色体(CFA09)へ追い込みました。lod スコアは 9.8。その区間の真ん中に、下垂体の組み立てを指揮する転写因子 LHX3 が座っていました。

LHX3 のイントロン5(読み取り後に捨てられる詰め物)は、健常犬で75塩基。中に GCGCCCC という7文字の並びが、少しずつ崩れながら6回繰り返されています。チームが最初に疑ったのは、反復が「伸びた」可能性。ところが小人症犬の断片は、ゲル上で予想と逆に短く流れた(原文 ‘Surprisingly … shorter’)。6連のうち1単位が丸ごと消え、68塩基になっていたのです。

欠けた7文字は、切り出しの合図となる供与部位・受容部位・分岐点のいずれにも触れていません。著者らは他生物の報告を表にまとめ、供与部位〜分岐点の距離が約50ヌクレオチドを割ると切り出しが滞るとしたうえで、LHX3 ではそれが53→46に縮むと示しました。はさみも型紙も無事なのに、切りしろが足りない。病的変異としてはかなり珍しい型です。

アオイアオイ7文字の欠けで、そこまで壊れちゃうの? 森下 慧森下 慧COS-7 細胞と小人症犬2頭の下垂体 cDNA で、エクソン5の脱落(p.E159fs)とイントロン5の居残り(p.V208ins21fs)が確認済みです。

どちらの読み違いでも、DNA をつかむ腕にあたるホメオドメインが失われます。ホモ接合犬1頭の下垂体では LHX3 の発現が健常犬のおよそ100分の1(qPCR、1検体のみ)。それでも正しく切られた mRNA はわずかに残り、この「漏れ」の多寡が重症度の幅を生むのでは、と著者らは仮説を添えています。23頭中22頭は欠失ホモ。残る1頭(F9)は、欠失とエクソン5の ACA 3塩基重複(p.N182dup)を1本ずつ抱える複合ヘテロでした。比較すると馬のイントロン5も75塩基、牛は114塩基で、犬以外では問題の反復そのものが見当たらなかったそうです。

GH・TSH・プロラクチン欠乏、ACTH だけ温存という4RH 試験の結果

病名から GH 単独の不足を連想しがちですが、実態はもっと広範です。Kooistra らは2000年の Domestic Animal Endocrinology 論文で、小人症 GSD 8頭(雄4・雌4)に GHRH・TRH・GnRH・CRH の4種を一度に打つ「4RH 試験」と CT を実施。GH に加え TSH とプロラクチンも基礎値が低く刺激に無反応、LH は低めで反応わずか、FSH は雄で測定限界未満。ところが ACTH だけは、基礎値も刺激後も対照犬と差がつきませんでした。

GH の働きを血中で映す IGF-1 の差は歴然です。Eigenmann らの1984年の Acta Endocrinologica 論文では、小人症 GSD 9頭の平均 11 ng/ml に対し、健常成犬 280、未成熟犬 345 ng/ml。α2 作動薬クロニジンで揺さぶっても、GH は微動だにせず。もっとも、これは40年前の1研究の平均値。アッセイが違えば値も動くため、現代の検査票の基準線として流用は禁物です。

見た目はホルモン不足の総和として現れます。誕生時は同腹と同じ体格、数週〜2〜3か月で伸びが止まり、手足と胴の比率を保ったまま縮尺だけが小さい「比例性」。綿毛が居座って硬い上毛が育たず、左右対称の脱毛、色素沈着、皮膚の化膿が続きます。2000年の CT では8頭中7頭の下垂体に嚢胞があり、かつてはラトケ嚢の名残が前葉を押しつぶす圧迫説が有力でした。1980年の Müller-Peddinghaus らの病理報告(13か月齢・7 kg の雌)もこの見立て。けれども嚢胞がごく小さい罹患犬がいること、ACTH が温存されることから、いまは嚢胞のほうが遺伝的欠陥の「産物」と解釈されています。

Pit-1、PROP1、LHX4、LIFR を順に除外した2000〜2006年

デンマークの Andresen・Willeberg は、1974年の初報(Rasmussen を加えた3名)に続く1976年の報告で、劣性仮説を補強しました。1976年の Nordisk Veterinaermedicin 論文は、罹患子犬を1頭ずつ含む4腹21頭の分離比が劣性モデルの期待値に沿うと報告し、13世代を遡る系図の祖先に複数のヘテロ個体を割り出しています。肝心の責任遺伝子は、その後35年近く空欄のまま。

ここからユトレヒトの消去法が始まります。2000年、Lantinga-van Leeuwen らが犬の Pit-1(POU1F1)をクローニングし、小人症 GSD でコドン81の Phe→Leu 置換を見つけたものの健常犬にもホモがいて除外。同年に PROP1 も配列変化なし・共分離なしで外れました。2002年には LHX3 の兄弟分 LHX4 を、CA 反復マーカーと5腹の解析で退け、2006年は Hanson らが LIFR を4家系22頭で否定。マウスの表現型から有望と目された候補が、次々と白紙に戻っていきました。

突破口はゲノム全域の連鎖解析で、2011年に LHX3 へ着地します。それに先立つ2010年12月、オランダの Tijdschrift voor Diergeneeskunde に、GSD とサーロス/チェコの両ウルフドッグで遺伝子検査が利用可能になった旨の告知が載っています。

CPHD3 の患者とウルフドッグに共通する環椎・軸椎の奇形

ヒトの LHX3 変異による複合下垂体ホルモン欠乏症は CPHD3(MIM 221750)。初報は Netchine らの2000年 Nature Geneticsで、近親婚の2家系の患者に、ACTH を除く前葉ホルモンの全面的な欠乏と、頸椎がこわばり頭を左右に回しにくい体つきが重なっていました。手がかりは、Lhx3 を壊したマウスが死産か生後24時間以内に死ぬという観察だったといいます。

続報で輪郭は広がります。Pfaeffle らは2007年、366人を洗って LHX3 変異はわずか7人、しかも W224ter の患者には首の回旋制限が見られなかったと報告。2008年の Rajab らは両側の感音難聴を加え、スウェーデン・ウメオの Kriström らは17世紀の共通祖先へ遡る6家系で、後頭骨・環椎・軸椎の関節の奇形と歯突起の頭蓋底陥入を確かめました。ドイツの R77X 男児では、ACTH 不足が年齢とともに遅れて顔を出しています。

アオイアオイワンコでも首の骨がおかしくなるの? 森下 慧森下 慧ユトレヒトの2015年報告で、LHX3 変異の小人症犬4頭に環椎の骨化不全と環軸不安定が見つかりました。Netchine らの症候群と響き合います。

その2015年の JVIM 論文の4頭は、チェコスロバキアン・ウルフドッグ3頭と GSD 1頭。環椎の骨化中心の継ぎ目が開いたまま、歯突起の位置がずれ、首の曲げ伸ばしで脊髄が圧されていました。ウルフドッグは7・8・10か月齢、体重 11.2〜20.0 kg で、ふらつきが進み、意識はあるのに横倒れし、首を反らせて夜空を仰ぐような姿勢をとった。1頭は悪化して安楽死、1頭は18か月齢で遊びの最中に頭を振った直後に急死、残る1頭は鎮痛と安静で持ち直しています。GSD は7か月齢から後肢の軽い不全麻痺。LHX3 変異の小人症に伴う頸椎異常としては初の報告で、著者らは罹患犬の神経徴候を見張るよう促しています。

ACTH にも犬版の前例が出ました。ゲント大学の Schils らによる2025年の症例では、9週齢で欠失ホモと確定した雌のホワイト・スイス・シェパード・ドッグが、2年後にリンパ球・好酸球の増多を手がかりに下垂体性の副腎皮質機能低下と判明しました。1頭きりの記録とはいえ、「ACTH は温存」が終生の保証ではないという警告です。なお、ヒトで目立つ感音難聴は、今回集めた犬の文献には一例も登場しません。

GH1 のチワワ、S280N の秋田犬・柴犬、POU1F1 のカレリアン

国内の研究にも、「小柄=LHX3」の短絡を止める材料があります。東京大学獣医臨床病理学研究室の2020年の JVDI 症例は、低血糖発作と虚脱で運ばれた生後6か月の雌チワワ。比例性の小体格、綿毛の残存、乳歯遺残、泉門の開存と、外見は下垂体性小人症そっくりでした。けれど T4 とコルチゾールは基準内、MRI で下垂体の形は正常、刺激試験で欠けていたのは GH だけ。配列を読むと異常は GH 本体の遺伝子 GH1(エクソン5の6塩基欠失、有害性は PROVEAN による計算予測)にあり、LHX3 ではありませんでした。

アオイアオイLHX3 って、体のサイズも左右するって本当? 森下 慧森下 慧瀋陽農業大学とトロント大学の2024年報告では、コドン280の S280N 置換が秋田犬と柴犬で体格差と結びついていました。小人症の欠失とは無縁の多型です。

Dang らのこの Genes 論文で中国で採血された秋田犬は28頭中25頭(89.3%)が A/A、柴犬は54頭中47頭(87.0%)、豆柴は32頭中26頭(81.3%)が G/G。相当する S279N を CRISPR でマウスに入れると、離乳数週後から体長・体重が有意に上回りました。LHX3 が背丈の調節にも一枚噛むという発見ですが、秋田犬や柴犬の LHX3 を調べれば体格や小人症の危険度が読める、という代物ではありません。

病名が同一でも、犬種が変われば犯人遺伝子は別人です。カレリアン・ベア・ドッグの下垂体性小人症は、フィンランドの Kyöstilä らが2021年に POU1F1 のイントロン変異と結びつけました。Orivet Japan(オリベット)のメニューでも、GSD 向けの「下垂体性矮小症/ドワーフィズム(小犬症)」と、「(カレリアンベアドッグ系)」付きの項目は別建てです。さらにコーネル大学の Randolph らの1990年の JAVMA 報告では、10頭の同腹で発育不良だった4頭のうち2頭は GH・甲状腺・副腎が正常で、1歳までに体重も体高もほぼ追いつきました。晩成型の子犬もいる、という記録です。

オランダの37頭、北米欧の197頭、JKC 登録369頭

キャリア率として出回る「約19%」の出どころは、2011年論文のオランダ在住・非血縁・正常発育 GSD 37頭中7頭(アレル頻度 0.094)。37頭という母数から、日本の GSD の5頭に1頭が N/del だと敷衍するのは飛躍です。米国・カナダ・ドイツ・オランダの GSD 197頭を SNP アレイで比べたTsai らの2012年 Mammalian Genome 論文は約8%と試算しましたが、根拠は2 Mb のハプロタイプ(対照15頭がヘテロ)で、欠失そのものを数えた値ではなく、著者自身が「控えめ」と断っています。

日本の GSD で欠失を数えた調査は、CiNii Research の18クエリ、J-STAGE の5クエリでもヒットせず、国内罹患犬の症例報告もゼロ件でした。

JKC(ジャパンケネルクラブ)の年次犬籍登録で GSD は、2005年 733頭(36位)→2015年 273頭→2020年 179頭と細り、2025年に 369頭(36位)へ持ち直しました。頭数は単年の新規血統登録で、在籍総数ではありません。働く犬としての顔も健在で、高知県公安委員会の定例会議資料(令和8年5月27日)によれば、県警の直轄警察犬2頭の片方、嘱託警察犬9頭中7頭がジャーマンシェパード。警察犬候補の繁殖で LHX3 判定を課しているかどうか、県警資料に記載はありません。年369頭という小さな池では、交配回数の多い種雄1頭のキャリア状態が数年後の子犬に色濃く映ります。

1955年の交配実験から持ち込まれた欠失:チェコスロバキアン/サールロース

GSD を下地に生まれた犬種へも、欠失はそのまま持ち込まれました。2014年の JVIM 論文で、3〜4か月齢のチェコスロバキアン・ウルフドッグ4頭と、1か月齢・5か月齢のサールロース・ウルフドッグ2頭の罹患犬は、いずれも GSD と同一の欠失をホモで保有。繁殖予定の無症状犬に目を移すと、N/del はサールロース239頭中75頭(31%)、チェコスロバキアン200頭中42頭(21%)。試料は飼い主から寄せられたもので、罹患犬の血筋を抱える家ほど検体を出しやすいという偏りを Voorbij ら自身が認めています。

JKC の犬種紹介(FCI No.332)は、チェコスロバキアン・ウルフドッグの起点を1955年、旧チェコスロバキアで GSD とカルパチアン・ウルフを掛け合わせた生物学的実験としています。2014年論文は欠失の発生を1940年以前とみる系図研究を引き、交配に使われた GSD の誰かがキャリアだった筋書きを示しました。キャリアがこれほど多いのに罹患犬の届け出が散発的なのはなぜか。著者らは、子宮内や出生直後に命を落とす del/del 胎子の存在を推測しています。チベット原産のチベタン・テリアでも、Thaiwong らが2021年に MSU VDL で同一欠失を拾っています。

日本の個体数は微々たるもので、JKC の2025年新規登録はチェコスロバキアン・ウルフドッグ23頭、サールロース・ウルフドッグ1頭、ホワイト・スイス・シェパード・ドッグ166頭。ウルフドッグには遺伝病と別の関門もあります。動物愛護管理法第25条の2は、オオカミとその交雑で生じた動物を「特定動物」とし、許可のない飼養を禁止。令和2年6月1日以降は、特定動物とその交雑種を愛玩目的で飼うこと自体ができません。静岡県の案内は、交雑種を「片親、もしくは両親が特定動物の場合に限る」とし、交雑種同士の子は該当しないと説明しています。環境省がチェコスロバキアン/サールロースを名指しで線引きした文書は見当たらず、血統書を携えて所轄保健所に照会するのが堅実です。

Orivet Japan の21,400円セット、犬用 IGF-1 が載らない外注メニュー

2026年10月11日時点で、国内窓口のうち下垂体性小人症を掲げていたのは Orivet Japan のセット検査だけで、「ジャーマン・シェパード【セット検査】」のほか、チェコスロバキアン・ウルフドッグ、ホワイトスイスシェパード、チベタン・テリアなど計6セットに入っています。GSD 版は遺伝性疾患15項目(血友病A、MDR1、変性ミエロパチー、ムコ多糖症Ⅶ、スコット症候群など)の一角が「下垂体性矮小症/ドワーフィズム(小犬症)」で、毛色などの形質10項目と DNA プロファイル付きで21,400円(税込)。商品ページに LHX3 の名はありません。チェコスロバキアン・ウルフドッグ版のセットは遺伝性疾患が DM と本症の2項目だけで、同じく21,400円です。綿棒は大阪宛てに送り返し(送料は自己負担)、同社 FAQ の目安で4〜7週間後に英文 PDF が届き、日本語の用語解説書と読み方ガイドが添えられます。VEQTA の GSD セット(DM・HUU)、Pontely(SOD1・SLC2A9・PRA-PRCD)、アモマグ(DM のみ)には本症の枠が見当たりませんでした。

アオイアオイ発育不良の子犬、動物病院では何の数値を見るんですか? 森下 慧森下 慧Voorbij らの2014年論文では IGF-1 の低値、GHRH 刺激への GH 無反応、TSH・総 T4 の低さ、MRI の嚢胞様構造が拾われています。

富士フイルム VET Systems の内分泌メニューで、T4・FT4・TSH は犬猫とも即日報告なのに、IGF-1 は「IGF-1(猫)【外注検査】」として猫専用、犬向けの行は見当たりませんでした。IDEXX など他社メニューは未確認で、国内で測定不能とは断じられません。ただ T4・TSH は外注でも即日報告なのに、GH 軸の評価は大学病院頼みになりがち、という段差は意識しておきたいところです。加えて Bhatti らの2006年のグレリン刺激試験では健常ビーグル3頭も 5 μg/l に届かず、偽陰性の余地が示されました。

東京大学附属動物医療センターの内分泌内科は、ホルモン値は揺れ動くため刺激試験・抑制試験・画像を組み合わせて総合判断すると説明し、初診予約は通院中の動物病院経由。日本獣医生命科学大学の付属動物医療センター(2023年2月のリリースで全18科)は、内分泌科と皮膚科を並べる紹介制の二次診療拠点。皮膚科か内分泌科かを飼い主が悩むより、週ごとの体重表、同腹犬と並べた写真、手元の DNA 判定書をまとめてホームドクターに渡し、紹介状の宛先を決めてもらうのが早道でしょう。

ミュンヘン47頭の生存データ、アニコムの引受除外16疾患、施行規則第十七号

以下は論文上の知見の紹介で、投与量や薬の入手には触れません。試されてきたのは甲状腺ホルモンの補充、乳腺に GH を作らせるプロゲスチン製剤(MPA、プロリジェストン)、ブタ由来 GH など。ミュンヘンの大学病院が2018年に英独2言語のウェブ調査で集めたKitzmann らの47頭では、治療群は方式を問わず無治療群より長命だった一方、標準的な体格まで育ったのは併用群13頭中わずか1頭。無治療のまま落命した5頭中4頭は生後12か月未満、1頭は7歳まで生存。Kooistra らの MPA 投与2頭、Knottenbelt らのプロリジェストン3頭でも、膿皮症、嚢胞性子宮内膜過形成、先端巨大症様の変化が記録されました。2014年論文の評価は、適切に治療すれば見通しは大きく改善するが、それでも「guarded(慎重)」。薬剤の選定は、T4 や IGF-1 の推移を追う主治医の仕事です。

アニコム損保「どうぶつ健保ふぁみりぃ」の申込条件には、罹患またはその疑いがあると引受自体を断る16疾患が並び、そこに「(2)慢性腎不全」と「(7)甲状腺疾患」が含まれます。下垂体性小人症は二次性の甲状腺機能低下を伴い、LMU の調査では慢性腎臓病も4頭に出ていました。同社は審査基準を開示していないので断言は避けますが、発育の遅れが病名に変わった後では新規加入の門が狭まる恐れがあります。

購入者が拠り所にできる省令の一文もあります。平成十八年環境省令第一号(動物愛護管理法施行規則)第8条の2、その第十七号が、販売業者が説明すべき項目として親犬と同腹子の遺伝性疾患の発生状況を挙げているのです。きょうだいの中に育ち損ねた子がいたか、両親は LHX3 判定を済ませているか——契約前にそう問うのは正当な権利です。ブリーダー側から見れば、N/del×N/del の組み合わせさえ外せば、欠失ホモの子犬は1頭も出ません。Voorbij らが2014年に「全繁殖犬を検査し正しい方針をとれば完全に根絶できる」と結んだのは、その意味です。

よくある質問

Q. 判定書の LHX3 欄が N/N なら、矮小化は起こり得ない?
消えません。判定の対象は LHX3 の7塩基欠失に限られます。チワワで見つかった GH1 の異常や、カレリアン・ベア・ドッグの POU1F1 型のように、別の扉から入ってくる小人症があります。体重グラフが寝てきたら、判定書は脇に置き、獣医師の触診と血液検査へ。

Q. 欠失を1本だけ抱える N/del の犬に、症状は?
発病しないとされます(劣性形質)。N/del×N/del なら、del/del の子は理論値で25%。チベタン・テリア3腹の調査でも、罹患3頭の父母はそろって N/del でした。

Q. 何週齢で兄弟犬との差に気づけますか?
出産直後は横並び、数週〜2〜3か月齢で差が開く、という記述が GSD でもチベタン・テリアでも共通です。綿毛が硬い上毛へ移らないことも目印になります。

Q. 日本の GSD に N/del はどのくらい?
未調査です。19%という数字の母集団はオランダの非血縁 GSD 37頭。CiNii 18クエリ・J-STAGE 5クエリで探した範囲では、日本の犬で数えた論文はゼロでした。

Q. 治療で、成犬らしい体格まで育ちますか?
大半は届きません。ミュンヘンの47頭調査で、生存期間は治療で延びたものの、標準体格に届いたのは併用群13頭中1頭。治療方針は、甲状腺値や IGF-1 の推移を見ながら担当獣医師が立てるものです。

Q. 首を反らす、ふらつくのは関係ありますか?
LHX3 欠失の罹患犬で、環椎の骨化不全と環軸不安定が報告されています。18か月齢で急死した例もあるため、ふらつき、首を反らせる姿勢、急な脱力に気づいたら、様子見をせず当日中に受診を。

参考文献

検査で調べるには

ペットのDNA検査には遺伝性疾患のキャリア(保因)やリスク指標を含むものがありますが、結果は「情報」であって診断ではありません。気になる症状や確定診断が必要な場合は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

この記事で扱う 下垂体性小人症 (LHX3) を、各サービスが検査対象として明記しているかを、お住まいの地域別にまとめました(✅=対象/❓=要確認(公式に明記なし)/❌=対象外)。

日本国内にお住まいの方

Pontely 犬の遺伝子検査
🌐 サービス提供: 日本国内向け(海外からの検体返送は非対応)
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
自宅スワブの犬の遺伝子検査。犬種別のおすすめ項目として MDR1・PRA(進行性網膜萎縮症)を扱う(公式 疾患ページで確認)。日本国内向けサービス。
カホテクノ 遺伝子検査
🌐 サービス提供: 日本国内向け(海外からの検体返送は非対応)
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
福岡の検査機関。MDR1 を公式に明記(コリー系対象、EDTA 全血)。DM は要確認。
VEQTA 犬 遺伝性疾患DNA検査
🌐 サービス提供: 日本国内向け(海外からの検体返送は非対応)
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
愛媛大発ベンチャー(大阪/福岡)。MDR-1・DM・PRA各型・vWD・HUU・EIC・第VII因子(F7)等を公式に個別明記。オンライン注文可。
アマネセル 遺伝子検査
🌐 サービス提供: 対応地域は公式に明記なし(要確認)
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
獣医師経由の病理検査ラボ。MDR1 を明記。DM は要確認。
岐阜大学・鹿児島大学 DM(SOD1) 検査
🌐 サービス提供: 日本国内・主治医(獣医師)経由のみ
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
大学の SOD1(DM) 検査。申込は動物病院経由。結果は発症リスクであって診断ではありません。MDR1 は要確認。
アニコム DM(SOD1) 検査
🌐 サービス提供: 日本国内向け(海外からの検体返送は非対応)
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
コーギー等の繁殖プログラムで大規模実施。国内での SOD1(DM) 検査の選択肢。MDR1 は要確認。
Orivet Japan(オリベット)犬 DNA検査
🌐 サービス提供: 日本・アジア居住者向け(検体は国内ラボへ返送)
下垂体性小人症 (LHX3):✅ 対象
犬のDNA検査(自宅スワブ・日本語/円建て・国内決済)。品種別セット/単項目で遺伝性疾患リスク+形質を提供する大手。MDR1・DM・PRA 等の個別対象は品種別ページで要確認。
amomag(アモマグ)犬 遺伝子検査
🌐 サービス提供: 日本国内向け(海外からの検体返送は非対応)
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
犬の遺伝子検査(自宅スワブ・低価格帯)。犬種別に遺伝性疾患リスクを解析。個別遺伝子の対象は公式で要確認。
エアデック mini ラフォラ病遺伝子変異検査
🌐 サービス提供: 日本国内・主治医(獣医師)経由のみ
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
国内の検査ラボ。Epm2b(NHLRC1)遺伝子変異を単項目で解析し、変異ホモ/ヘテロ/野生型を判定。検体は全血0.5ml以上(抗凝固剤入り・冷蔵送付)で、スワブ不可・動物病院経由での依頼。報告は受付日から2〜5日。Epm2a等の他要因によるラフォラ病は解析範囲外と明記。

日本国外にお住まいの方

※ キットの購入・国際配送が可能でも、検体の返送・解析・結果受領といったサービス提供が居住国で受けられる保証はありません。各サービスの「サービス提供」地域と返送方法を注文前に必ずご確認ください。

Embark (Breed + Health)
🌐 サービス提供: US/カナダ/EU/UK/豪で利用可(USラボ返送・国際は返送料自己負担)
下垂体性小人症 (LHX3):❌ 対象外
Cheek swab; multi-condition health panel that includes MDR1 and DM (SOD1). Also on Amazon (US health kit; JP = parallel-import).
Orivet
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
下垂体性小人症 (LHX3):✅ 対象
Standalone tests incl. MDR1 (ivermectin sensitivity) and Degenerative Myelopathy (DM). GenoPet kit also on Amazon.
Paw Print Genetics
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
Clinical-grade lab; standalone MDR1. Other conditions incl. DM: verify on the product page.
LabGenVet (Canada)
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
カナダの獣医遺伝学ラボ。NHLRC1 のラフォラ病検査を、ビーグル/チワワ/ミニチュア・ワイヤーヘアード・ダックスフンド/ニューファンドランド/ウェルシュ・コーギー・ペンブロークについて掲載。郵送受付、検体種と国際発送は要問合せ。
Feragen
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
Genomia
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
下垂体性小人症 (LHX3):✅ 対象
チェコ・プルゼニのEUラボ。NHLRC1 のラフォラ病検査を12犬種向けに単項目で掲載。飼い主が直接注文でき、スワブキットの提供あり。

その他の国・地域で提供されているサービス(お住まいの地域では入手できない場合があります)

Wisdom Panel Premium
🌐 サービス提供: US・カナダ+UK(各地域ラボ)。EU本土は要確認
提供地域: 米国 / 英国 / EU
下垂体性小人症 (LHX3):❌ 対象外
Cheek swab; 265+ conditions including MDR1 and DM (SOD1). Lafora disease is reported as a LINKAGE test (marker-based prediction, not the NHLRC1 repeat itself) — the company itself advises confirming with a direct test before breeding decisions.
Basepaws Dog DNA
🌐 サービス提供: 実質US国内のみ(国際は返送を自己手配・返送先は米国ラボ)
提供地域: 米国
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
Dog health panel includes MDR1. DM (SOD1): verify on the product page. Also on Amazon.
UC Davis VGL (dog)
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
提供地域: 米国
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
University lab; standalone MDR1 and DM (SOD1) tests, owner-orderable.
WSU PrIMe / VCPL (discovered MDR1)
🌐 サービス提供: 対応地域は公式に明記なし(要確認)
提供地域: 米国 / 英国 / EU
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
Dr. Mealey’s lab — the group that discovered ABCB1-1Δ. Direct-to-owner MDR1 test. DM: verify.
Breedwise DNA
🌐 サービス提供: 国際は要問合せで対応可(国別送料別)
提供地域: 米国
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
Standalone MDR1 oral swab (US). DM: verify on the product page.
OFA / University of Missouri
🌐 サービス提供: 世界から郵送受付(輸入/通関書類が必要な場合あり・返送は自己手配)
提供地域: 米国
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
The originating DM lab (Awano 2009). SOD1 c.118G>A test; result = risk class, not a diagnosis. MDR1: verify.
Wisdom Panel Premium
🌐 サービス提供: 対応地域は公式に明記なし(要確認)
提供地域: EU
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
Laboklin
🌐 サービス提供: EUの自社ラボ網+UK(他地域は個別対応)
提供地域: EU / 英国
下垂体性小人症 (LHX3):✅ 対象
GLBizzia(格致博雅)ペット遺伝子検査
🌐 サービス提供: 中国国内向け(国際対応は要確認)
提供地域: 中国
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
Urban Animal (India)
🌐 サービス提供: インド国内のみ(国外は要問合せ)
提供地域: インド
下垂体性小人症 (LHX3):❓ 要確認
India-based broad panel (130+ conditions); MDR1 / DM not explicitly published — verify.

健康・症状が心配な方へ — 獣医師への相談

遺伝性疾患の確定診断や治療方針は、検査キットではなく獣医師が判断します。以下は公的な相談先です。

日本獣医師会(動物病院を探す)

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このページは教育目的の情報提供であり、獣医療上の診断・助言ではありません。ペットの健康に関する判断は、必ず獣医師にご相談ください。

この記事を書いた人

森下 慧

森下 慧

編集・執筆(獣医師ではありません)

分子生物学を学び、受託ゲノム解析ラボでの勤務経験を持つ、犬や猫と暮らす愛好家。獣医師ではなく、査読済みの研究論文と公的機関の一次データを読み解き、「診断ではなく情報」として整理・再構成することに徹しています。

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