結論:フレンチ・ブルドッグのらせん尾(スクリューテール)は、5番染色体 DVL2 の第15エクソンで C が1文字抜けた c.2044delC(p.Pro684LeufsX26)を2本そろえた姿で、ねじれた尾の芯はゆがんで癒合した尾椎の束だ。UC Davis の79/79頭にもヘルシンキ大学の200頭超にも野生型と1本持ちは混じっておらず、欠失のない親犬をフレブルの中から選び出す道はない。画像では尾椎のゆがみが42頭中42頭、胸椎の奇形が51頭中47頭(92.1%)に出るが、豪州の全脊椎 CT は胸椎の半椎体の多くを、症状と無関係な偶発所見と判断した。判定書の DVL2 欄が語るのは尾の骨の形の素因までで、胸腰椎で脊髄が押されているかは、獣医師の神経学的検査と X 線・CT・MRI でしか分からない。後肢のもつれ、急な起立不能、尿や便が出ない・漏れるといった変化は、判定欄の文字にかかわらず当日中に診てもらう合図だ。
- 毛色のとなりに背骨の項目 — 国内の DVL2 検査はカタログのどこにあるか
- 100頭の全ゲノムが指した1か所 — 尾椎は必ず、胸椎は犬種しだい
- らせん尾3犬種673頭に別の型なし — フィンランド1,954頭調査が映す固定犬種
- CT に写る半椎体と、ふらつきや痛みとの距離
- 尾のねじれは背骨のゆがみを映すのか — ドイツの265頭と CT 149頭
- 3歳10か月の雌が一晩で立てなくなった — 日獣会誌の症例に重なる2つの要因
- フレブル14,832頭の保険請求データに「半椎体」の病名コードはない
- 町の病院の X 線1枚から、紹介先の脊髄造影・MRI へ
- FCI 標準の理想は「rather straight」 — ねじれは容認、無尾は失格
- よくある質問
- 参考文献
- 検査で調べるには
毛色のとなりに背骨の項目 — 国内の DVL2 検査はカタログのどこにあるか
DVL2 の行を国内の通販で探すと、Orivet Japan のフレンチブルドッグ【セット検査】(21,400円税込、2026年10月18日閲覧)に行き当たる。商品頁を下へたどると、DVL2 は「スクリューテール(DVL2)」の名で、ココア・パイド・長毛・ボディサイズと並ぶ【形質遺伝子検査】の最下段に1行だけ載っている。CDDY や DM が並ぶ病名側の10行とは別の段だ。
尾椎の行を持つのは、全899商品のうちセット検査446品中の16品で、ブルマスティフやカネ・コルソの名まで並ぶ。ところが、らせん尾の代表格のブルドッグ、それにパグとペキニーズのセットには、この1行がない。
| 窓口 | 商品・検査名の表記 | 価格 | DVL2 の扱い |
|---|---|---|---|
| Orivet Japan | フレンチブルドッグ【セット検査】 | 21,400円(税込) | 【形質遺伝子検査】の最下段に「スクリューテール(DVL2)」 |
| VEQTA | フレンチ・ブルドッグ 3項目セット | 13,200円(税込) | 収録なし(高尿酸尿症・PRA・DM) |
| アニコム「パフェ」 | 主要な検査可能品種と疾患名 | — | フレブルは変性性脊髄症と高尿酸尿症のみ |
| LABOKLIN(英国)料金表 | 8747 Robinow-like syndrome (DVL2) | £48.00(VAT込、2025年10月版) | 単品で掲載、日本からの申込手順は未確認 |
Orivet の採取はブラシ1本で自宅で済み、獣医師の許可は要らない。検体は大阪のオリベットジャパンへ普通郵便で返し(返送料は利用者負担)、PDF の結果が届くまで通常4〜7週間かかる。JKC の2025年犬籍登録でフレブルは9,578頭・7位、ボストン・テリアは2,352頭・25位と、同じセットを買う層は小さくない。フレブルの場合、尾椎の行は届く前から結果の見当がつく欄で、21,400円の中身は病名10行と毛色・体格の座位にあると考えておけば、判定書を開いて肩透かしを食わない。
100頭の全ゲノムが指した1か所 — 尾椎は必ず、胸椎は犬種しだい
欠失を割り出したのは、末尾著者 Bannasch を含む UC Davis の Mansour ら17名が2018年12月に PLoS Genetics へ出した論文だ。21犬種100頭の全ゲノム配列で、らせん尾の10頭(ブルドッグ5・フレブル3・ボストン2)と対照84頭を突き合わせると、1,246万余りの変異の首位に DVL2 第15エクソン(最後から2番目)の1塩基欠失が立った(p = 4.37×10-37)。読み枠が1文字ずれて C末端の49アミノ酸が無関係な26アミノ酸に置き換わり、タンパク質は差し引き23アミノ酸短くなる。マウス線維芽細胞 NIH/3T3 では、WNT 刺激後のリン酸化が弱まっていた。
らせん尾の芯は、ゆがんで癒合した尾椎の連なりで、本来の尾椎が8〜15個足りない。追試の判定は49犬種667頭に及び、ピットブル33頭が三つの型に割れ、シー・ズー28頭にも1本持ちが1頭まぎれていた。パグ29頭は全頭が野生型で、尾は付け根から先まで長さがあり、尾椎の奇形もない。くるりと巻いて見えても、パグの尾はこの欠失とは別の筋書きだ。
同じ2本持ちでも、尾と胸とでは出方が違う。論文の表2・表3を部位ごとに並べ直すと次のようになる。
| 遺伝子型と犬種 | 尾椎の奇形 | 胸椎の奇形 |
|---|---|---|
| 2本持ち・フレブル | 42/42(100%) | 47/51(92.1%) |
| 2本持ち・ブルドッグ | 3/3 | 7/7(100%) |
| 2本持ち・ボストン | 12/12 | 20/44(45.5%) |
| 2本持ち・ピットブルと雑種 | 4/4 | 0/2 |
| 1本持ち(家系調査) | 0例 | 0例 |
尾は取りこぼしのない劣性、胸は犬種で強弱の変わる劣性、と分けて読むのが正確だ。ヒトの Robinow 症候群は DVL1・DVL3 の似た読み枠ずれ(ほかに ROR2・WNT5A・FZD2・NXN)で起こり、犬の「Robinow 様症候群」はこの対応に由来する名前で、同一疾患を意味しない。OMIA(002186-9615)は同じ欠失を別の表記規則で c.2051del と書くが、論文の c.2044delC と中身は同じだ。
アオイ鼻ぺちゃなのも、この欠失のしわざ? 森下 慧フレブルは SMOC2 の LINE 挿入も BMP3 の F452L も持つ。鼻先の短さを DVL2 ひとつのせいにはできない、と著者たち自身が断っているよ。らせん尾3犬種673頭に別の型なし — フィンランド1,954頭調査が映す固定犬種
ヘルシンキ大学の Niskanen ら(2021)は、フィンランドで暮らす15犬種1,954頭の尾椎の行を数え上げた。らせん尾3犬種673頭の欄に、野生型と1本持ちは0頭だった。1本持ちが出たのは、3犬種の外にいたフレブルとジャーマン・シェパードの交雑犬2頭だけだ。保因犬(1本持ち)はスタッフォードシャー・ブル・テリアで約2割、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアで約3割と、欠失はまだ犬種の内側で揺れている。UC Davis の判定と横に並べておく。
| 犬種 | UC Davis 2018(2本持ち/判定頭数) | ヘルシンキ大学 2021(1本持ち・2本持ち) | Orivet Japan セットの DVL2 行 |
|---|---|---|---|
| フレンチ・ブルドッグ | 79/79 | 200頭超が全頭2本持ち | あり(形質欄) |
| ブルドッグ | 33/33 | 200頭超が全頭2本持ち | なし |
| ボストン・テリア | 59/65(1本持ち4、野生型2) | 165頭が全頭2本持ち | あり |
| アメリカン・スタッフォードシャー・テリア | — | 285頭:27.7%・1.8% | あり |
| スタッフォードシャー・ブル・テリア | 1本持ち1頭 | 714頭:18.9%・0.1% | あり |
| ドーグ・ド・ボルドー | — | 73頭:37.0%・0% | なし |
| パグ | 0/29(全頭野生型) | — | なし |
| ペキニーズ | — | 10頭:0% | なし |
スタッフォードシャー・ブル・テリアでは2本持ちが期待値6.6頭に対し実測1頭と、理由の分からない欠けがあった。2本持ちのアムスタッフ4頭は尾の長さが平均26 cm(1本持ち33 cm、野生型34 cm)、曲がった尾椎は1頭あたり1・8・10・14個とばらばらで、尾椎の総数は20〜21個のまま減っていなかった。CT 19頭ではどの遺伝子型にも胸椎・腰椎の奇形がなく、欠失が胸椎奇形を起こさないか、浸透率が従来推定の45〜100%よりばらつきが大きいかのどちらかだと著者らは推した。しかも1本持ち8頭中3頭、野生型8頭中2頭にも尾椎の奇形があり、野生型のスタッフォードシャー・ブル・テリアには尾椎11個の短いねじれ尾がいた。尾の曲がりには、DVL2 以外の未知の変異も絡んでいる。2本持ちの1頭には仙椎の奇形もあったが、前腕の橈骨の長さや体高は遺伝子型で有意には変わらなかった。
頭蓋骨の計測では、硬口蓋が2本持ち<1本持ち<野生型の順に短く(1本持ち対野生型で P=0.007)、2本持ちは頭蓋底も短く、顔面指数は高く、軟口蓋の厚みは薄かった。一方で軟口蓋の長さには差がなく(P=0.80)、骨の天井だけが縮んで軟口蓋が相対的に余る形になる。短頭種気道症候群のリスクを上乗せしうる骨格の偏りだが、2本持ちのアムスタッフは3頭しかおらず、仮説の段階にとどまる。
同大学の広報文は、遺伝子検査で DVL2 がらみの不調を防げる犬種がある一方、「変異の幅が残っていない犬種では、いまの繁殖計画で改善できない」と書き、アムスタッフの尾の異常はブルドッグ・フレブル・ボストンのらせん尾より軽かったとも伝える。フレブルは、広報文の言う「変異の残っていない犬種」の典型だ。令和3年環境省令第7号の第2条第6号イが求める「組合せ」の回避も、DVL2 に限ればフレブルの内側では選びようがなく、同省令の本文には「短頭」「奇形」「先天」の3語が一度も出てこない。
アオイ口の中の骨まで、この欠失で変わるの? 森下 慧アムスタッフでは2本持ちほど硬口蓋が短く、軟口蓋の長さは変わらなかった。天井の骨だけ縮むから、のどの奥で柔らかい部分が余る計算になるね。CT に写る半椎体と、ふらつきや痛みとの距離
胸椎のくさびは、神経症状のない犬にもありふれて写る。英国王立獣医大学とグラスゴー大学の Ryan ら(2017)が神経正常の171頭を CT で見直すと、8割に1個以上の椎骨奇形があり、フレブルでは62頭の9割超に半椎体が並んでいた。豪州の二次診療で気道の治療に来た犬を調べた Moses ら(2024)でも、フレブルとブルドッグの胸椎異常は第5〜第10胸椎に集まっていた。
症状を分ける目印は、奇形の有無ではなさそうだ。フレブルとパグ49頭を首から尾の先まで CT で撮った Brown ら(2021)は、奇形の有無・個数・亜型のどれも神経症状を予測せず、フレブルでは大半が偶発所見だったと結論した。神経症状と結びついたのは、パグでコブ角が35度を超える後弯、つまり背中の丸い突き出しだった。De Decker らの2024年の総説も、胸椎半椎体、尾側関節突起の形成不全(CAPD)、移行椎、頭側胸椎の脊柱管狭窄を神経正常犬にありふれた所見として並べ、臨床的な重みは未決着と整理する。
別の筋で注意したいのが、椎間板と両隣の椎体に細菌などが入り込む椎間板脊椎炎だ。Grapes ら(2024)の108頭では、病院全体と比べた有病率がフレブル3.4倍(95%信頼区間1.6〜6.7)、イングリッシュ・ブルドッグ4.3倍。発症の中央値はフレブル1.1歳・ブルドッグ1.0歳で、他犬種の7.3歳よりずっと若い。フレブル症例の92.3%に椎体奇形があり、感染した椎間板の8割が奇形椎体の隣にあった。背中に触れると嫌がる1〜2歳の犬、熱っぽい犬は、偶発所見と決めつけず早めに診せたい。
これらの画像研究はどれも DVL2 で層別していない。フレブルには2本持ち以外の比べる群がないためで、2本持ちの一部だけが神経症状を出す理由も、それを左右する別の因子も、まだ突き止められていない。OMIA は半椎体そのもの(OMIA 001191-9615)を多因子性に分類し、半椎体の個数の遺伝率を0.58とする Schlensker と Distl(2015)の推定をOMIA の項目で引いている。
家庭での記録は具体的なほど役に立つ。見る場面と急ぎ具合を表にしておく。
| 見る場面 | 記録しておくこと | 受診の急ぎ具合 |
|---|---|---|
| 月1回、平らな廊下の往復 | 横と後ろから十数秒の動画、爪先がフローリングを擦る音、後肢の交差 | 変化が続けば次の診察で見せる |
| 段差の手前 | 足踏み、上り下りのためらい | 変化が続けば次の診察で見せる |
| 抱き上げた瞬間 | 悲鳴 | 繰り返すなら早めに相談 |
| 背中に触れたとき | 1〜2歳でも嫌がる、熱っぽい | 偶発所見と決めつけず早めに受診 |
| 排尿・排便 | 姿勢の崩れ、出ない、漏れる | 出ない・漏れるは当日中 |
| 急な後肢のもつれ、起立不能 | 気づいた時刻 | 夜間でもすぐ電話 |
尾のねじれは背骨のゆがみを映すのか — ドイツの265頭と CT 149頭
尾の骨と胸腰椎はどのくらい連動しているのか。ドイツの Lackmann ら(2022)は、神経以外の用事で来院した短頭犬265頭(フレブル・ブルドッグ・パグ)を前向きに X 線で撮り、169頭から計707個の椎体奇形を拾い出した。尾のねじれが重い犬ほど椎体奇形も併せて見つかり、著者らはその重い尾を繁殖犬選びの物差しに加える案を出した。神経の異常と結びついたのは楔形の数そのものではなく、特定の形と角度、段差だった。
| 椎体の形(Lackmann ら 2022) | 707個に占める割合 | 神経の異常との関係 |
|---|---|---|
| 腹側楔状椎(おなか側が薄いくさび形) | 48% | — |
| 背側楔状椎(背中側が薄いくさび形) | 14% | — |
| 短縮椎(前後に寸詰まり) | 14% | — |
| 腹外側楔状椎 | — | 関連あり |
| 背外側半椎体 | — | 関連あり |
| コブ角30%超(抄録の表記のまま) | — | 関連あり |
| 椎体の段差1.75 mm 以上 | — | 関連あり |
Bertram ら(2019)の CT 149頭では、腰と仙骨の境目にある腰仙部の半椎体がパグ(1.7%)に比べフレブル(32.0%)と英ブル(24.3%)に多く、半椎体のある犬ほど尾のゆがみも強かった。飼い主アンケートでは、ドイツのフレブル574頭を集めた Hinze ら(2025)が、鼻の短い犬ほど半椎体、椎間板疾患、気管の低形成、呼吸の異常の回答が多いと報告した。画像で裏を取っていない自己申告の数字だ。
尾のねじれ具合は群れ全体では背骨のゆがみと連動しても、目の前の1頭の胸椎を言い当てる道具にはならない。Covasa らの2026年の総説が「犬種との関連は、原因が共通していることを必ずしも意味しない」とくぎを刺すのも、この飛躍に対してだ。
アオイくさび形の椎骨にも、いろんな形があるの? 森下 慧ドイツの707個の分類では、おなか側の薄いくさびが48%で最多だった。神経の異常と結びついたのは数より形と段差で、1.75 mm 以上の段差が目印の一つだ。この節と前の節で引いた画像研究を、ひとつの表にまとめておく。
| 研究(発表年) | 国・施設 | 対象と撮影法 | 背骨・尾の主な所見 |
|---|---|---|---|
| Ryan ら(2017) | 英国 RVC・グラスゴー大学 | 神経正常171頭の CT(フレブル62頭) | フレブルの半椎体93.5%、パグ17.6% |
| Bertram ら(2019) | 英国 | 149頭の CT(フレブル53頭) | 腰仙部の半椎体 フレブル32.0%・英ブル24.3%・パグ1.7% |
| Brown ら(2021) | 豪州 | フレブルとパグ49頭の全脊椎 CT | 奇形の有無・個数・亜型で症状は予測できず |
| Lackmann ら(2022) | ドイツ | 短頭犬265頭の X 線 | 169頭に椎体奇形707個、腹側楔状椎48% |
| Moses ら(2024) | 豪州の二次診療 | 気道治療で来院した神経症状のない犬の CT または X 線 | 胸椎異常 フレブル96.82%・英ブル90.47%・パグ76.74% |
| Grapes ら(2024) | 英国 | 椎間板脊椎炎108頭 | フレブル3.4倍、感染椎間板の80%が奇形椎体の隣 |
| Hinze ら(2025) | ドイツ | フレブル574頭の飼い主回答 | 尾の奇形98%・半椎体25%(自己申告) |
3歳10か月の雌が一晩で立てなくなった — 日獣会誌の症例に重なる2つの要因
日本の臨床の見方は、日本獣医師会雑誌63巻(2010)の生涯研修 Q&Aがよく伝えている。3歳10か月の雌のフレブルの経過を、順に表にする。
| 経過 | 日獣会誌 Q&A(2010)の記載 |
|---|---|
| 発症 | 前日の夕方に突然ふらつき、数時間で歩けなくなる |
| 来院時 | 後肢の完全な対麻痺と膀胱麻痺 |
| X 線 | 第7・第9胸椎の椎体が短く、腹背像で第7胸椎が蝶形(半側脊椎) |
| CT | 椎間板の逸脱を確認 |
| 手術 | 深部痛覚の消えたグレードV相当、24時間以内に片側椎弓切除術 |
| その後 | 後肢の麻痺は改善せず、先天的な脊椎奇形の影響も否定できないと考察 |
解説によると、犬の半側脊椎は巻き尾の系統にいちばん多く、よじれた尾(kinked tail)は尾椎の半側脊椎から来る。半側脊椎による脊髄の症状はたいてい成長期に出る。成犬になってから急に立てなくなったこの例では、椎間板の逸脱が主因とされた。深部痛覚の消失から24時間以内に手術しても後肢の麻痺が戻らなかった点について、解説は生まれつきの脊椎奇形の影響を消しきれないとみる。
解説はフレブルを軟骨異栄養性の犬種とも書く。骨の形に関わる DVL2 と、椎間板の質に関わる CDDY は別の遺伝子で、Orivet のセットでも DVL2 は形質の棚、CDDY は病名の棚と分かれている。尾椎の行がみな同じでも背骨が安泰とは読めず、2本持ちだから麻痺が避けられないとも読めない。呼び名は文献によって「半側脊椎」「半側椎骨」「半椎体」と揺れるが、指しているものは同じだ。
背骨と尾の用語を、出典ごとに整理する。
| この記事の用語 | 指しているもの | 出てくる文献 |
|---|---|---|
| スクリューテール(らせん尾) | ゆがんで癒合した尾椎の連なり。ラボによって Screw tail・Robinow-like syndrome・ST locus と表記 | Mansour ら 2018、LABOKLIN 料金表 |
| 半椎体・半側脊椎・半側椎骨 | 同じ先天性の椎骨奇形。日本語の文献で呼び名が揺れる | 日獣会誌 2010、獣医麻酔外科学雑誌 2003 |
| 蝶形(の椎体) | 腹背像で第7胸椎がこう見えた | 日獣会誌 2010 |
| 腹側楔状椎・背側楔状椎・短縮椎 | 椎体奇形を形で分けた呼び名 | Lackmann ら 2022 |
| 腹外側楔状椎・背外側半椎体 | 神経の異常と結びついた椎体の形 | Lackmann ら 2022 |
| 後弯・コブ角 | 背中の丸い突き出しと、その角度 | Brown ら 2021、Lackmann ら 2022 |
| 対麻痺と膀胱麻痺 | 両後肢が動かず、排尿も自力で調節できない状態 | 日獣会誌 2010 |
| CAPD・移行椎・頭側胸椎の脊柱管狭窄 | 神経正常犬にもありふれた背骨の所見 | De Decker ら 2024 |
| 椎間板脊椎炎 | 椎間板と両隣の椎体に細菌などが入り込む感染 | Grapes ら 2024 |
| 硬口蓋と軟口蓋 | 口の天井の骨の部分と、その奥の柔らかい部分 | Niskanen ら 2021 |
| 腰仙部の半椎体 | 腰と仙骨の境目にできた半椎体 | Bertram ら 2019 |
| c.2044delC と c.2051del | 同じ1塩基欠失の、論文表記と OMIA 表記 | Mansour ら 2018、OMIA 002186-9615 |
フレブル14,832頭の保険請求データに「半椎体」の病名コードはない
アニコム損保『家庭どうぶつ白書2025』のフレブル頁(0〜12歳14,832頭)で、背骨がらみで罹りやすい疾患の順位表に載るのは、15位の椎間板ヘルニアだけだ。順位表の上のほうは軟口蓋過長症、中耳炎、耳血腫、熱中症で、のどと耳と暑さが占めている。背骨に関わる数字は次のとおりで、請求件数ベースの割合であり発生率ではない。
| 白書2025(フレブル頁と参考資料)の項目 | フレブル | 比べる値 |
|---|---|---|
| 椎間板ヘルニアの請求割合(563頭) | 3.8% | 犬全体1.4% |
| 同・オッズ比(95%信頼区間) | 2.91(2.67〜3.17) | 罹りやすい疾患の15位 |
| 同・最頻年齢/年間診療費 | 3歳/平均121,435円・中央値25,742円 | — |
| 神経疾患の請求割合(年齢補正後) | 男の子6.8%・女の子6.3% | トイ・プードル男の子3.4% |
| 筋骨格疾患の請求割合(年齢補正後) | 男の子13.3%・女の子12.5% | — |
| 傷病名一覧表の「半椎体」「脊椎奇形」 | コードなし | 「先天性」は心疾患2行のみ |
巻末の傷病名一覧表をたどると、筋骨格は椎間板ヘルニア・椎間板脊椎炎・変形性脊椎症・環軸関節不安定症と並んで「上記に該当しない筋骨格疾患」で閉じ、神経側には「脊髄疾患(椎間板ヘルニア除く)」がある。行がないことは不払いの宣言ではないが、楔形椎や半椎体という名目の請求は統計の表に浮かんでこない。
加入書類では、FPC『ペットほけんフィット』2024年8月版の申込書が、脊椎疾患のチェック欄に続けて告知6「先天的・遺伝的な疾患がありますか?」を置き、審査しだいで「特定の傷病を不担保とした保険契約」になると明記する。アニコム『どうぶつ健保ふぁみりぃ』も、保険証の特記事項欄に記された先天性異常を補償しない。加入前の胸腰椎の X 線に楔形椎が写っていれば、その部位が補償から外れる余地は残る。
FPC の加入は生後30日以上7歳未満。子犬の健診で胸腰椎を撮るのが先か契約が先かの損得は、告知書の作りと審査基準で変わる。迷ったら募集代理店に「撮影済み X 線に楔形椎が写っていた場合の扱い」を書面で尋ね、回答を残しておくと食い違いを防げる。
町の病院の X 線1枚から、紹介先の脊髄造影・MRI へ
楔形椎や蝶形椎、尾椎の癒合を拾い出すだけなら、かかりつけでの側面像と腹背像の2枚で足りる。脊髄のどこが押されているかを突き止める段になると、ほぼ二次診療の守備範囲に移る。日本獣医師会『診療料金実態調査』(令和3年実施・回答1,096名)の数字を、背骨の検査に絞って並べるとこうなる。
| 背骨の検査 | 中央値(麻酔料除く) | 「対応外」と答えた病院 | この記事での登場場面 |
|---|---|---|---|
| X 線単純撮影 | 4,000円 | 2.5% | 日獣会誌の症例で第7胸椎の蝶形を確認 |
| 脊髄造影 | 13,750円 | 73.2% | JARMeC 脳神経科の検査項目 |
| CT(造影なし) | 35,000円 | 89.6% | 日獣会誌の症例で椎間板逸脱を確認 |
| MRI | 45,000円 | 92.6% | JARMeC などの神経科で使用(岐阜大学神経科は2026年7月31日から新規初診を休止中) |
二次診療の一例が、川崎本院を持つ日本動物高度医療センター(JARMeC)の脳神経科で、脊髄造影検査を行い、椎弓切除術・ベントラルスロット術・椎体固定術まで手がける。受診はかかりつけ医経由の完全予約制、予約時刻の8時間前から絶食(水は可)で、結果は数日以内にかかりつけ医にも届く。支払いは現金かクレジットカード。2026年4月には川崎本院に MRI 装置「SIGNA Victor」が入った。救急外来はないので、夜中に急に立てなくなったら、まず地域の夜間救急へ電話する。
国内では、げんき動物病院の浦野らが半側椎骨の犬に減圧術と椎体固定を行った1例を獣医麻酔外科学雑誌(2003)に報告しているが、犬種は書かれていない。
アオイ検査結果の紙、病院に持っていくべき? 森下 慧持参は自由だけど、79頭そろって2本持ちのフレブルでは、診断の決め手にはならないね。廊下を歩く動画と、ふらつきに気づいた時刻のメモのほうが役に立つよ。FCI 標準の理想は「rather straight」 — ねじれは容認、無尾は失格
らせん尾が犬種の理想とは限らない。FCI 標準 No.101(2023年版)は「rather straight(どちらかといえば真っすぐ)」な尾を理想に掲げ、ねじれた尾は容認にとどめる。JKC は2023年11月2日の第291回理事会でフレブルの犬種標準を改めたが、手を入れたのはマズルと重大欠点で、尾の条項はそのまま残った。
| 項目 | FCI 標準 No.101(2023年版) | JKC(2023年11月改正後) |
|---|---|---|
| 尾の理想 | 生まれつき短く、肛門を覆う長さ、低い付き、rather straight | 一般外貌に「生まれつき尾は短い」、尾の条項は改正対象外 |
| よじれ・結節・折れのある尾 | admitted(容認) | — |
| 無尾・埋没尾 | 失格 | — |
| マズル | — | 「たいへん短く」→「短く」、比率「約6分の1」→「ショート・フェイス。」 |
| 行き過ぎた体型 | 呼吸困難は失格 | 重大欠点に「オーバータイプのもの。過度な犬種の特徴。」 |
尾の付け根のしわに汚れがたまって赤くなっていれば、皮膚の診察も受けておきたい。
アオイ尾の巻き方って、ショーの審査で得点になるの? 森下 慧FCI 標準 No.101 の理想は rather straight で、よじれた尾は容認どまり。無尾と埋没尾は失格だから、渦が強いほど高評価にはならないよ。尾の外では、Donner ら(2026)が遺伝子型とカルテを結んで口蓋裂を調べ、症例がフレブルに偏ることを示した。分離の続くアムスタッフ系や雑種を足して、DVL2 欠失は口蓋裂のリスク因子として浮かんだ。
| Donner ら(2026)の解析 | 症例/対照 | 結果 |
|---|---|---|
| 全犬種のゲノムワイド解析 | 口蓋裂266頭/506頭 | 5番染色体に信号(3.25×10-8) |
| フレブルだけの解析 | — | 信号なし(欠失が固定) |
| 口蓋裂3例の全ゲノム(ブルドッグ・アムスタッフ・ボストン) | — | 影響の大きい変異の首位が c.2044delC |
| 雑種の追加判定 | 47例/113頭 | DVL2 が最小の p 値(9.03×10-21) |
| アムスタッフとその雑種 | 27頭中19頭が2本持ち/15頭中0頭 | p = 7.3×10-7 |
ヘルシンキ大学の CT で2本持ち3頭中2頭に軽い心雑音があったが、心臓との関連は著者らも推測の域とする。
らせん尾と背骨をめぐる研究と標準の動きを、年ごとに並べるとこうなる。
| 年 | らせん尾と背骨をめぐる出来事 |
|---|---|
| 2003年 | 獣医麻酔外科学雑誌に、半側椎骨の犬への減圧術と椎体固定の1例(犬種の記載なし) |
| 2010年 | 日獣会誌の生涯研修 Q&A に、3歳10か月のフレブルの半側脊椎と椎間板逸脱 |
| 2017年 | 英国 RVC の CT 研究、神経正常のフレブルで半椎体93.5% |
| 2018年 | UC Davis が DVL2 の c.2044delC を報告、フレブル79/79頭が2本持ち |
| 2021年 | ヘルシンキ大学が1,954頭を判定、豪州の全脊椎 CT が奇形の多くを偶発所見と判断 |
| 2023年 | FCI 標準 No.101 の現行版、JKC 第291回理事会でマズル条項を改正(尾は据え置き) |
| 2024年 | 豪州で胸椎異常96.82%、英国で椎間板脊椎炎3.4倍の報告、De Decker らの総説 |
| 2026年 | Donner らが口蓋裂との関連を報告、Covasa らの総説 |
よくある質問
Q. 英語レポートのスクリューテール欄に「2本持ち」。尾の病気が見つかったということ?
見つかったのは病気ではなく、尾椎がねじれて癒合する素因だ。背中や後肢の具合は判定欄ではなく、神経学的検査と X 線・CT・MRI の所見で決まる。
Q. パグの巻き尾も DVL2 のしわざ?
違う。UC Davis が調べたパグ29頭は全頭が野生型で、尾椎の数も足り、ゆがみもなかった。チェコの検査会社 Genomia の商品頁も、パグの巻き尾をスクリューテールと区別している。
Q. 尾の渦がきつい子ほど、胸椎にも楔形椎がある?
ドイツの短頭犬265頭の X 線研究では、重い尾の奇形と椎体奇形が併せて見つかった。とはいえ群れの傾向で、尾の巻き具合から1頭ごとの胸椎の形までは読めない。
Q. 胸腰椎の X 線に楔形椎が写っていたら、ペット保険は無理?
二択ではない。FPC の申込書は、告知6の答えしだいで特定の傷病を外した引き受けも、引き受け見送りもありうると書く。写っていた椎骨の高さと所見名を控えておき、申込前に募集代理店へ扱いを尋ねておきたい。
Q. DVL2 と CDDY は同じもの?
別の遺伝子だ。DVL2 は椎骨の形、CDDY は椎間板の性質に関わり、Orivet のフレブル用セットでも DVL2 は形質欄、CDDY は病名欄と棚が分かれている。
Q. 夕方から何度も腰砕けのように座り込む。翌朝まで待ってもいい?
朝を待たずに、かかりつけか夜間救急へ電話を。日獣会誌の3歳10か月の症例も、ふらつき始めて数時間で起立不能になり、膀胱麻痺を伴っていた。尿が出ない、漏れるといった変化も同じく急ぐ合図だ。ふらつきに気づいた時刻と、廊下を歩かせた十数秒の動画を持っていこう。
参考文献
- Mansour TA, Lucot K, Konopelski SE, Dickinson PJ, Sturges BK, Vernau KL, Choi S, Stern JA, Thomasy SM, Doring S, Verstraete FJM, Johnson EG, York D, Rebhun RB, Ho HYH, Brown CT, Bannasch DL (2018). Whole genome variant association across 100 dogs identifies a frame shift mutation in DISHEVELLED 2 which contributes to Robinow-like syndrome in Bulldogs and related screw tail dog breeds. PLoS Genet 14(12):e1007850.
- Niskanen JE, Reunanen V, Salonen M, Bannasch D, Lappalainen AK, Lohi H, Hytonen MK (2021). Canine DVL2 variant contributes to brachycephalic phenotype and caudal vertebral anomalies. Hum Genet 140(11):1535-1545.
- Donner J, Hytonen M, Freyer J, Lohi H, Foran RC, Forman OP (2026). Association of the Disheveled 2 (DVL2) gene c.2044delC variant with increased risk of canine cleft palate. Anim Genet 57(3):e70101.
- Ryan R, Gutierrez-Quintana R, Ter Haar G, De Decker S (2017). Prevalence of thoracic vertebral malformations in French bulldogs, Pugs and English bulldogs with and without associated neurological deficits. Vet J 221:25-29.
- Brown JD, Podadera J, Ward M, Goldsmid S, Simpson DJ (2021). The presence, morphology and clinical significance of vertebral body malformations in an Australian population of French Bulldogs and Pugs. Aust Vet J 99(9):378-387.
- Grapes N, Bertram S, Goncalves R, De Decker S (2024). Prevalence of discospondylitis and association with congenital vertebral body malformations in English and French bulldogs. J Vet Intern Med 38(6):3138-3143.
- Lackmann F, Forterre F, Brunnberg L, Loderstedt S (2022). Epidemiological study of congenital malformations of the vertebral column in French bulldogs, English bulldogs and pugs. Vet Rec 190(1):e509.
- 日本獣医師会雑誌 63巻 775-778頁(2010)獣医師生涯研修事業 Q&A 小動物編(3歳10か月のフレンチ・ブルドッグの半側脊椎と椎間板逸脱症).
- アニコム損保(2025)家庭どうぶつ白書2025 第2部第2章 品種別の統計「9. フレンチ・ブルドッグ」.
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